三、

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 なるべく隣を見ないように意識しながら運転前の準備に入った。前の使用者が動かしたであろう座席の位置を直して、ミラーの角度とガソリンの残りを確認して。その間ずっと西川さんに見られていたけれど、気づかないふりをした。 「では出発しますね」  西川さんが切り出したのはアクセルを踏んですぐの事だった。 「今度食事に行きませんか?」  ーーえ?  危うく踏み込みそうになるのをどうにか堪えて、平静を装う。 「バタバタで歓迎会もできてなかったですもんね。皆さんに声をかけますね」 「二人で行きたいとお誘いしてるんですけど。年齢とか気になりますか?」  ストレートなお誘いは、これ以上わからないふりはさせてくれなかった。 「いえ……」 「あ、彼氏います?」 「それは、いません……」 「なら、俺の事考えてくれませんか?」  西川さんはまたさらりと言ってのけた。こういうところは変わってない。昔ならドキドキが止まらなかったであろう大人の男性の口説き文句。  だけど西川さんの気持ちがわからない。何故何事もなかったかのようにこんな言葉が吐けるのか。  ーー私に何を言ったのか覚えてないの⁉︎  車を止めて叫びたい衝動に駆られた。でも、そんな勇気があるわけもない。
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