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到着した夏樹先生の仕事場は、流石は売れっ子と言うべきか都心一等地のマンションの一室だ。再開発された商業施設群や繁華街も近いし、出版社からも十数キロ。乗り継ぎが多くなる関係で車にはなってしまうけれど、あまり時間がかからないのが有り難い。
無言のまま車を停めて、気まずい雰囲気のまま外へ出る。駐車場から部屋までの僅かな時間だって隣に並んでいられないくらいだけど、漫画家の前で出すわけにはいかない。
「あの、えのさ」
「あ、榎野さん! いらっしゃい!」
「夏樹先生、お時間を作って頂いてありがとうございます。お邪魔します」
玄関の扉が開いた瞬間に、笑みを作った。
「いらっしゃい!」
「榎野さん、ちわっす!」
「こんちは〜」
「こんにちは、お邪魔します」
出会って四年、連載が始まって二年、このマンションを借りて一年。週刊誌の担当ともなれば打ち合わせの頻度も高いから、ここに来るのも慣れたもの。アシスタントさん達に声をかけられながらいつも通り一番奥の応接スペースに入ると、気持ちも少し落ち着いてくる。
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