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「デビュー前から?」
「ええ、持ち込みを受けたのが始まりで、以来担当させていただいてます」
「だから向こうも特別信頼してくれていると」
「はい」
頷きながらシートベルトを締める。意識して隣は見ないようにしていたのに、ミラーを調整しようとして納得いってなさそうな西川さんと目が合ってしまった。
「男の目だったと思うけどなあ」
まだそんな事を言う。
「……あなたと」
一緒にしないでください。出かけた言葉はすんでのところで飲み込んだ。
「え?」
「何でもありません。夏樹先生に失礼です。二度とこんな事仰らないでください」
また苦しくなった。西川さんが隣にいる、何もなかったかのように話しかけてくる。それが嫌で仕方ない。何もかも投げ出して車から降りたいくらい、呼吸だって忘れそうなくらいに苦しいのに、西川さんはまるで気づいてない。
「出します」
この息苦しい空間から抜け出したい一心で、アクセルを踏み込んだ。
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