三、

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 できる限り仕事以外の場所で一緒にいたくはないけれど、お世話になっている先輩達の誘いを断るのも嫌で。編集部のみんなも一緒だと自分に言い聞かせた。  編集部御用達の居酒屋までは徒歩で十分程。用意ができた人から順に向かうけれど、その道中も西川さんと一緒になった。予約しておいた座敷の個室でも、何故か荷物を置いた場所は隣。席は班長の隣を確保したけれど、そうしたら西川さんは斜め向かいに陣取った。  きっと偶然じゃない。  どうにか席を移れないか考えていたところに最初の飲み物が運ばれてきて。 「皆、一年お疲れ様。来年も読者のため、先生達のために頑張っていこう。それでは乾杯!」 「かんぱーい!」  忘年会は編集長の音頭と共に幕を開けた。 「食べ物行き渡るくらい注文しといてくれ!」 「適当に頼んでいいですか?」 「おー」 「あ、唐揚げたのむ!」 「了解です!」  憂鬱で仕方なかったけれど、私が一番の若手で西川さんが一番の新入り。 「次何頼みます?」 「おー」 「それより食べてるか⁉︎」 「そうだぞ、榎野ちゃんも食べろよー? こっち食ったか?」 「まだです、いただきます!」  御用聞きに行けば食べ物を勧められ。 「西川君は酒強い?」 「はい、そこそこ」 「お、いいねー! この日本酒うまいんだ!」  お酌に行けば逆にお酌されで、話すどころか一箇所で落ち着く暇もない。
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