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読み終わった瞬間、緊張が解けて息が漏れた。
「どうだ?」
「完璧です」
「よし! 回せっ!」
原稿は振り返ったところですぐさま取り上げられて、印刷所に回される。そうして立派なコミック誌が作られて、何万人もの読者のもとに届くのだ。
携わった自慢の作品達がたくさんの読者に読まれて愛される。それはとても誇らしい事だけど、同時に現実を突きつけられる。
「どうかしたか?」
「いえ、素晴らしい作品だと思って……」
「そうだよな、流石は田宮先生! アンケートは常に五本指に入るしコミックは一千万部目前! アニメも順調で言う事なしだ!」
アンケート。一千万部。アニメ化。
全て自分には雲の上の話だった。今となっては別世界の話になってしまった。
「そう、ですね」
「どうした? 元気ないぞ?」
「いえ、原稿は揃ったみたいなので夏樹先生と打ち合わせ行ってきます」
痛む心に蓋をして、立ち上がる。
「おお! 夏樹先生、今が踏ん張りどころだぞ」
「頑張れよ!」
「はい!」
笑みを浮かべて一歩踏み出せば、他班の先輩達からも応援の言葉をかけられた。
どれだけ忙しくても身だしなみには手を抜かない。きちんとメイクをして、髪はバレッタでハーフアップ。立ったり座ったりが多いからパンツスーツがメインだけど、トップスはアンサンブルやシフォンブラウスで女性らしさを演出する。不規則な仕事で睡眠時間が確保できない分は二日に一度のヘアパックとフェイシャルパックで補ている筈。
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