三、

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 ほんの一瞬、時が止まったような感覚に陥った。本当はそんな事ないのに、周りから音が消えてしまったような気すらする。  本人が目の前にいるのに、あんな事があったのに、口に出せる西川さんの神経がわからない。 「聞いた事ないな」 「作品有名?」 「結構前ですし当時珍しかった高校生デビューっていう事だけが話題になった漫画家ですから」  もう顔を上げる事もできなかった。 「どれくらい前なの?」 「十年近く前ですね」 「お、それは話題になったろ!」 「俺ちょっと聞き覚えあるかも」  ただ息を潜めて、早くこの話題が終わるように祈るだけ。 「どうなの実際」 「大変でしたよ、高校生のお守りは」 「でも女子高生の担当なんて役得じゃないか」 「美人ならそうですけどね」 「違ったのか!」 「そりゃ残念!」  先輩達もお酒が入っているのはわかってる。でも、それ以上言わないで。ブスだったのはもうわかっているから言わないで。 「今も描いてるのか?」 「女子高生っていうので話題にはなりましたけど、あまり才能はなくて高校生のうちにやめちゃいましたね」 「今はどうしてるの?」 「さあ……連載途中でいきなりやめるって言ったきりですから」
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