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私が急に黙り込んだせいで場は静まり返ってしまった。先輩達も酔いが覚めてきたのか気まずげな表情だったり、こちらを気遣う表情だったり。
せっかくの年に一度の忘年会。皆飲みの場は好きなのに、普段忙しいせいでこうして部の全員が一堂に会する事ができるのは今日くらいだ。雰囲気を壊したくないから無理に笑みを作った。
「実はちょっと前からいい感じの方がいるんですよー!」
ありもしない嘘だ。だけどそう発した瞬間、先輩達の表情は目に見えて明るくなった。
「なんだよー!」
「聞いてないぞ!」
「変な奴じゃないだろうな!」
「大丈夫ですよ!」
ーー笑え。
ーーまだ大丈夫。
返しながら自分に言い聞かせる。
忘年会はまた喧騒に包まれた。産まれたばかりのお子さんの話に始まって、ランドセルの買い方や反抗期の話。奥さんへのプレゼントの話や、お勧めの居酒屋、休日のお出かけスポットの話。笑顔を貼り付けたまま乗り切った。
盛り上がった飲み会は当然のように二次会に突入する。ほとんどの先輩が二次会へ流れていったけれど、明日の朝実家に帰るなんて嘘をついて場を離れた。
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