三、

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 他に誰も使う人がいない地下鉄の駅へ向かって歩いたけれど、階段を下りる事はできなかった。駅を通り過ぎてもとにかく歩き続ける。少しでも早く、その一心で歩くスピードはどんどん速くなる。  信号を渡り、それでも歩き続けて十字路を二つ越えて。いよいよ人気も少なくなって、振り返ったとしても誰も見えないところまで来て、ようやく足が止まる。  同時に大粒の涙が溢れた。  ーー覚えてなかった。気づきもしなかった。  すれ違う人に怪訝な顔をされたけれど、次から次へと涙が溢れ落ちて自分では止められない。どうする事もできない。ただただ立ち尽くした。    どれだけそうしていたんだろう。突然震えた携帯に我に返った。 【夏樹先生】  表示を見た瞬間に電話をとってしまったのは編集としての条件反射だ。 「……はい」 〈出てくれて良かった、今日仕事納めでしたよね? あ、今忘年会中とかでした?〉 「いえ……先程終わりましたから大丈夫ですよ」 〈良かった!〉  喜びを隠さない声は何度となく聞いてきたもの。いつもと変わらない夏樹先生の声に、少しずつ平静を取り戻す。 「どうかしました?」  声が震えそうになるのをなんとか耐えて尋ねると、夏樹先生は一転真剣な声になった。
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