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〈いや……これから二次会とか行くのかなって〉
「行きませんよ……そこまでお酒が強いわけじゃないですし、私がいない方が先輩達も気を遣わずに飲めるでしょうし」
〈そうじゃなくて……気の合う人と飲み直すとかないですよね? 例えば二人とか、気になっている人と、とか〉
「あるわけないじゃないですか」
本当にそんな事あり得るわけがない。自分で言っていて嫌になるのに、夏樹先生は再び嬉しそうに良かったなんて呟いた。
〈この時期って恋愛したくなるって言うじゃないですか。榎野さんに近寄る男がいたらどうしようかと思いましたよ!〉
「クリスマスもお伺いしてたでしょう。何時までいたと思ってるんですか」
〈すみませんでした、思いの外アイディアが出なくて〉
「いえ、それは全然。でも、クリスマスも夜まで何の予定もない私に、男性なんているわけないじゃないですか」
すると、機械が紡ぐ声は一転、低く囁くようなものになった。
〈長引かせたの、わざとだって言ったら怒りますか〉
「え……?」
意味を理解するのに時間がかかった。
……否、本当は最初から何を言われているかわかってる。夏樹先生から向けられる視線や言葉の意味から、ただ逃げ続けてきた。
「あの……」
〈ん?〉
本当はダメだとわかっている。でも止められない。
今日だけ。今日だけだからこの優しさに付け入らせてください。
「……これから行ってもいいですか……?」
言ってしまった。
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