三、

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「さ、どうぞ」  夏樹先生はわざわざタクシーで迎えに来てくれた。急いで出てきたのだろう、スウェットにデニムといういつもの作画スタイルだ。  慣れ親しんだマンションのエントランスに入ったところで尋ねられた。 「マンションのゲストルーム空いてたんで予約しちゃいました。今日はそっちでいいですか?」  意味がわからない程、鈍くも子供でもない。何も言わずに頷けば、背に大きな手が添えられてエレベーターへと導かれる。  エレベーターは先生の仕事場がある五階を通過し、最上階でようやくその扉を開いた。出て右手に進み、自習室、談話室と続いたその奥の二部屋がゲストルーム。夏樹先生は迷う事なく一番奥の部屋の前に立ち、ポケットから取り出した鍵でその扉を開ける。 「さあ」  扉の向こうは流石は高級マンション、驚くような光景が広がっていた。  最初に出迎えてくれるのは玄関に飾られたお洒落な絵画。廊下を真っ直ぐに進むと広めのベッドルームで、中央には柔らかそうなキングサイズのベッドが鎮座している。右奥には大きめのドレッサーがあり、私のような何の用意もない人に優しく一通りの試供品が揃えられているし、その手前にはミニバーまである。お風呂だって扉の外からでも察する程に広くて立派。  まるでホテルの一室だ。
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