三、

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 夏樹先生は部屋に驚く時間しかくれなかった。今まで背に回っていた手が手首を掴んだかと思えば、無言のままにコートとカーディガンを床へと落とされる。そのままぐいと手を引かれたかと思えば。 「えっ」  やっと声が出た時には優しくベッドに横たえられていた。 「もう逃がしませんから」  夏樹先生は意地悪く笑って、体を被せてくる。確かにもう逃げられない。  シミどころかニキビ一つすらない綺麗な顔が、こんな風に男らしい表情をするなんて思いもしなかった。  ーー抱いてもいいと思える対象なんだ……。  それだけで有難い。近づいてくる顔に次に起こる事を悟りながら、ゆっくり目を閉じた。  夏樹先生は本当に優しいと思う。  途中で初めてな事に気づいただろうに、何も言わずに抱いてくれた。  酷くされても痛くても良かった。  なのに夏樹先生の手は泣きそうになる程に優しい。  触れてないところなんてないんじゃないかと思うくらい色んなところに触れられて、口付けられて。 「可愛いっ……」 「榎野さんっ……もう、名前で呼んだっていいですよねっ!」 「ほんとに夢みたいだっ透子さんっ」 「絶対、これきりにはさせませんからっ!」  まるで大切な彼女を相手にしているかのような言葉までかけてくれる。 「っ夏樹、せんせっ」 「先生はいらないんだけどなあ」 「そ、んなわけにはっ」 「あーっ! まじ可愛いっ!」  愛されている。素敵な女性だと思われている。そんな錯覚を覚える程に大切に何度も抱かれて。 「透子さん、疲れちゃった? あとは俺に任せて寝ていいですよ」  最後は抗えない疲労感と眠気に身を任せた。
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