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四、
それからの事はあまり思い出したくない。
目を覚まして最初に感じたのは心地の良い温かさ。でもそれが人肌である事に気がついて我に返った。
ーー大変な事をしちゃった。
担当漫画家に手をだしてしまうなんて。しかも今も二人共裸で、夏樹先生に抱き締められている。こんなのあっていい筈がない。血の気が引いた。
どうにか夏樹先生を起こさないように抜け出そうとしたけれど、夏樹先生との間に隙間なんてない。夏樹先生の端正な顔は息がかかるくらい近くにあって、少しでも動けば起こしてしまいそうだ。
ーーどうしよう……。
途方にくれたところで、夏樹先生のまつ毛がピクリと動いた。
「んっ……」
夏樹先生はそのまま寝心地の良い体勢を確かめるように身動ぎし、体の角度を変える。だけど硬直するこちらを他所に、瞳は閉じたまま。それどころか身動ぎと同時に体に巻き付いた腕が離れた。
体は反射的に動いた。
転がり落ちるようにベッドから下り、近くに落ちていた衣服をかき寄せる。下着とスカート、ブラウスまでは身につけたけれど、カーディガンを着る時間も惜しい。コートとバッグと一緒に抱えて、部屋から飛び出した。
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