四、

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 だから。 「入口のとこ夏樹先生来てるぞ。榎野のこと、探してるんじゃないか?」 「あ……今行きます」 「案内頼むな」  会わないわけにはいかない。  一際スタイルのいい夏樹先生は、他の先生達の輪の中にいても一目で見つかった。昨年一緒に選んだ濃紺のスーツを着て、ポケットにはコミックの重版記念に贈った赤いチーフ。その姿に心臓が大きく脈打った。  ただ見惚れられていたのも一瞬の事。こちらに気づいた夏樹先生は、いつもと変わらない満面の笑みで先生達の輪を抜けて来る。  ーー良かった。いつも通りだ。  あの日の出来事をなかった事にして、元通りに戻れるかもしれない。そんな淡い期待を抱いてしまう。でも。 「透子さん!」 「夏樹先生っ!」  先生は忘れてくれないらしい。 「透子さん、今年のスーツは昨年までと違うんですね。綺麗です」 「あの、夏樹先生!」  他の人達に聞かれないように必死に止めようとしても、どこ吹く風。 「今年は司会とかじゃないですよね? 今年こそ一緒に食べましょうよ、ね?」  周りに誤解されかねない言葉を次から次へと発していく。
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