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「だろうなとは思ってたけど、やっぱり本気だと思ってなかったんですね」
夏樹先生は不機嫌を隠そうともせず、息を吐いた。思わず背筋が伸びてしまうのも仕方ないと思う。
「だって……そんな事あるわけないじゃないですか! そうだ、夏樹先生、連載で忙しくてあまり出会いがないからそんな血迷った事を言うんですよ!」
「付き合いで女性がいる店に行く事もありますし、アシさん達に頼まれて合コンに行った事もありますよ。それでも透子さん以外を好きになる事はないですけどね」
「年齢だっていくつ違うと思ってるんですか!」
「五歳半なんて誤差でしょ」
どうにか説得しようと思ったけれど、夏樹先生は引いてくれない。
「それなら……刷り込みですよ。最初に対応した編集が私で長く一緒にいたから、信頼を恋心だと錯覚して」
「あり得ないでしょ。」
ああ言えばこう言う。こう言えばああ返ってくる。
だから言ってしまった。
「しっかりしてください! わざわざ私なんかを好きにならなくても、もっと他に素敵な女性が!」
「は?」
夏樹先生から発せられたのは出会って四年、一度も聞いた事のない低い声だ。
「透子さんを悪く言うのは透子さん自身でも許しませんよ。俺は透子さんとしか付き合いたくないし、やっと前進できたんだからもう逃しません。透子さん、逃げないでちゃんと聞いてください」
その表情はやっぱり真剣で、嘘や冗談を言っているようには見えない。何と答えればいいのかわからなくて。
「先生方、どうぞお入りください……ってどうした?」
「新年会の後で話しましょうっ!」
呼びに出てきてくれた先輩が、天の助けに思えた。
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