四、

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 どうにか新年会の会場に逃げ込んだものの、夏樹先生は遠目から見ても不機嫌だった。    参加者の確認に食べ物の確認、進行のお手伝いに挨拶回りと忙しいのを言い訳にして動き回ってはみるけれど、常に視線が突き刺さる。でも、混乱していてちゃんと話し合う自信もない。  ーー夏樹先生は何と言った? 好き? 私を? 「先生方、お食事足りてますか?」 「ああ」 「ごめんね、うちのアシさん達すごい勢いで食べてると思うから」 「全然。寧ろたくさん召し上がってください」  ーー揶揄われてる? 「榎野、テープあるか?」 「予備の文具は裏に置いてますけど、何かありました?」 「あっちの今年の表彰作展示、何枚か剥がれてきたみたいだ」 「なら直しておきます」  ーーでも、夏樹先生は人を傷つける嘘は言わない。 「何か足りない物ないですか?」 「ないない! あ、これうちの奥さん。ほら、話してた編集部の榎野ちゃんだよ」 「まあ! ほんとに若くて可愛い子じゃない! 来る編集さん今まで皆男性ばかりだったのに! 今度うちにも遊びに来てね!」 「ありがとうございます」 「おいおい、榎野ちゃんだって忙しいんだから」  ーーどうしよう。何と言えばいい? 何と言えば正気に戻ってもらえる?  どれだけ考えても答えは見つからなかった。
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