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咄嗟に出たのはまた出まかせと愛想笑いだった。
「そういうわけじゃ……向こうも忙しいので」
「土曜日ですよ? イブにもクリスマスにも会えないなんて訳ありとしか思えないです」
「そんな人じゃありませんから」
少しでも隙を見せれば、何を言われるかわかったものじゃない。
「遊ばれてるんじゃないですか? 既婚者とか」
「違いますよ」
「俺、心配で」
「ご心配ありがとうございます。でも、ちゃんとした人ですから」
早く諦めてくれる事を願いながら、当たり障りのない答えを返し続ける。
だけど、片隅とはいえパーティー会場の中で仕事とは無関係な話をする事に、西川さんにこんな話をされているという事実に、段々と苛立ちがつのっていく。
「そんなにいい相手なんですか」
「素敵な人です」
「榎野さんにそう言わせるなんて羨ましいな」
「ありがとうございます。でも本当に素敵な人なので」
「騙されてるんじゃないですか? 榎野さん男慣れしてなさそうだから」
糸が切れるのは一瞬だった。
「あなたに関係ありません!」
まずい。そう思った時には遅かった。思ったより大きな声が出てしまったらしく、周りがしんと静まり返る。振り返らなくても四方から視線が集まっているのがわかった。
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