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それはいきなりの発表だった。
〈新生出版・KAGAYAKI、経営統合発表! 大手出版社同士の統合は初! 近く社名変更か!〉
ほんの一握りの役員にしか事前通達はなく、ほとんどの社員はニュースで知った。
「企画経営系の部署は大きく人員の入れ替えがあるが、編集部はほとんどそのまま、うちは入りはあっても出はなしだ!」
すぐに伝達があってみんな胸を撫で下ろしていたけれど、心臓の鼓動は速さを増すばかり。
どうしても漫画に携わりたくて、漫画部門を持っている出版社は片っ端から受けたけど、KAGAYAKIだけはプレエントリーどころか説明会にも行けなかった。ホームページを開く事すら出来なかった。
ーーお願い。
ーーお願い。
ーーどうか、お願い。
その日が来るまで祈り続けた。
でも、やっぱり神様は意地悪だ。いつだって私の願いを叶えてはくれない。
「西川浩二です。KAGAYAKIでは長く少女コミック、女性向けコミックの編集部にいました。よろしくお願いします」
手足の指先から感覚がなくなっていくのがわかった。背筋が寒い。体が自分の物じゃないみたいに動かない。息だってうまく吸えない。
「随分なイケメンだなー!」
「うちにはいないっすもんね」
「お前が言うなお前が!」
十年も経つのに、面影は全く変わっていなかった。
ラフな格好な人が多い編集部で、紺やグレーのスーツをかっこよく着こなして、一際目立っていた。髪はヘアワックスで遊ばせて、腕時計も靴も素敵なブランド物。
「西川君は優秀な編集だったと聞いてる。暫くは交代で連れて回って、先生達に挨拶させてくれ。その後の業務については適正を見ながら考えていく」
「皆さん、よろしくお願いします」
「まずは見境班、頼むぞ」
「はい。ならこっちのデスクを使ってくれ」
編集長と班長の声がやけに遠くに感じた。
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