四、

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 張り詰めるような空気を破ってくれたのは、可愛がってくれていた大御所の先生だった。 「榎野ちゃん、手伝って! とりあえずこれ、学校の外枠描いて、校庭がチラッと見える感じで! 急ぎで!」 「はい!」  先生の方へ回り込めば原稿を渡され、代打なのだろう、初めて見るアシスタントが場所を譲ってくれる。  慣れた丸ペンに手を伸ばした。  椅子に座ってペンさえ持てば、手はどう動けばいいのかわかってる。高校生の頃から校舎の絵は数え切れないくらい描いてきた。まずは大枠を描いて、それに合わせて教室の窓の間隔を決めていく。 「え?」 「何で描けるんだ⁉︎」 「榎野ちゃん、ほんとに描いてるよ」  先生の連載作品は全て読んだ。今連載している作品は勿論、先生が今まで出したコミックは全て何度も何度も読み返してきた。キャラクターにコマ割り、大迫力のバトルシーンの描き方に、ストーリーの持っていき方。何か気づきがある度に付箋を貼って、人気が出る理由を、他の先生達にアドバイスできそうな事を、そして自分の漫画に足りなかった事を考えてきた。  だから先生の漫画の癖は良くわかってる。見本として置かれている先々週分と照らし合わせながら、屋上の一つ下の階から下がる垂れ幕を描き、窓の数を確認し、最後に先生の癖に合わせて影を多めに入れれば。 「できました!」
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