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「待て待て、西川が言ってた⁉︎」
「西川が担当してたっていう女子高生漫画家⁉︎」
一瞬の間の後、先輩達は堰を切ったように声を上げた。
「あれだろ⁉︎ 連載途中で投げ出したって」
「榎野がか⁉︎ 投げ出したりはしないだろ」
「え、だって忘年会で結構な事言ってたよな⁉︎ 可愛くないとか面倒見るの大変だったとか……」
「あれが榎野⁉︎ そんな素振りなかったろ! 気づいてなかったのか⁉︎」
近くにいた編集長や班長だけじゃない。離れた机についている先輩達もみんながみんな驚き、視線をこちらに、多分背後にいる西川さんへと向ける。
だから、平静ではいられなかったんだろう。
「え、あのダサおんっ……」
西川さんは普段なら表立っては言わない言葉を口走った。途中で止めようとしたようだけど、何と言おうとしたのかは明らかだ。
「そうですね、あのダサ女です」
努めて明るく返そうと思ったけれど、そうはならなかったらしい。ホールはまた水を打ったように静まり返った。
ぽたり。
溢れた涙が机に置いた腕を濡らす。
「やっぱり気づいてなかったんですね」
「う、嘘だろ⁉︎ だって、あんな、そんなわけ」
「あんなダサかった女がこんな所にいるわけない、ですか? ……漫画から離れられなくて、せめて携わる仕事がしたくて、この仕事に就いたんです……」
「だから忘年会で様子がおかしかったのか」
班長の声がやけにホールに響いた。
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