四、

22/25

83人が本棚に入れています
本棚に追加
/65ページ
「待て待て、西川が言ってた⁉︎」 「西川が担当してたっていう女子高生漫画家⁉︎」  一瞬の間の後、先輩達は堰を切ったように声を上げた。 「あれだろ⁉︎ 連載途中で投げ出したって」 「榎野がか⁉︎ 投げ出したりはしないだろ」 「え、だって忘年会で結構な事言ってたよな⁉︎ 可愛くないとか面倒見るの大変だったとか……」 「あれが榎野⁉︎ そんな素振りなかったろ! 気づいてなかったのか⁉︎」  近くにいた編集長や班長だけじゃない。離れた机についている先輩達もみんながみんな驚き、視線をこちらに、多分背後にいる西川さんへと向ける。  だから、平静ではいられなかったんだろう。 「え、あのダサおんっ……」  西川さんは普段なら表立っては言わない言葉を口走った。途中で止めようとしたようだけど、何と言おうとしたのかは明らかだ。 「そうですね、あのダサ女です」    努めて明るく返そうと思ったけれど、そうはならなかったらしい。ホールはまた水を打ったように静まり返った。  ぽたり。  溢れた涙が机に置いた腕を濡らす。 「やっぱり気づいてなかったんですね」 「う、嘘だろ⁉︎ だって、あんな、そんなわけ」 「あんなダサかった女がこんな所にいるわけない、ですか? ……漫画から離れられなくて、せめて携わる仕事がしたくて、この仕事に就いたんです……」 「だから忘年会で様子がおかしかったのか」  班長の声がやけにホールに響いた。
/65ページ

最初のコメントを投稿しよう!

83人が本棚に入れています
本棚に追加