四、

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「そうですよ。持ち込みの時に一目惚れして、デビューしてからはずっとアピールしてたのに、本気にしてくれないんですもん。まあ、休みの日も電話して、クリスマスとかバレンタインとか誕生日とか恋人系のイベントの時は必ず打ち合わせをお願いして、他の男に入り込まれないようにはしてましたけど。攻めあぐねてどうしようかと思っていたところに弱っている透子さんが来てくれたんですもん、漬け込むに決まってるじゃないですか」  何を当たり前の事をとばかりの言い方に、理解が追いつかない。  でも、思い返してみれば確かに誕生日もクリスマスもバレンタインデーも、ついでにホワイトデーも、必ず夏樹先生の仕事場に行っていた気がする。原稿に余裕がある時は次週の打ち合わせ、余裕がない時は進捗確認。平日は請われたら勿論二つ返事で飛んで行っていったし、休日だってどうせまともな予定もないから断る理由もなかった。  それが当たり前だと思っていた。だけど違ったらしい。 「透子さん、逃す気も諦める気もさらさらないので付き合ってください」  綺麗に笑う夏樹先生の顔が物語っている。  夏樹先生は本当に本気で言ってくれてたんですかとか。  編集長と班長の頭を抱える姿がそっくりだとか。  先生達は何でニヤニヤ笑ってるんですかとか。  アシスタントさん達は何を盛り上がっているんですかとか。  次から次へと言葉が脳裏を過ぎるけれど、口にはできなくて。  どうにか出てきた言葉は。 「あの、えっと……漫画……続き……」  ただそれだけだった。
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