エピローグ

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 紙の上に光が差し込んだ。顔を上げてみれば、いつの間にか外は明らみ、カーテンの隙間から太陽が顔を出している。  まずい。慌ててテレビをつけると、朝の情報番組がちょうど見たかった場面を映していた。 〈今年度マンガ大賞を受賞されました夏樹先生です! 夏樹先生、おめでとうございます〉 〈ありがとうございます〉  フラッシュライトが光る中、他所行きの笑みを浮かべた『夏樹先生』が壇上でインタビューを受けているところだ。インタビュアーはお嫁さんにしたいランキング常連の女子アナ。世の中の男性、特にモテたくて漫画家を目指している人からしたら夢のような光景だろう。 〈先生はまだお若く、本格連載一作目での快挙という事ですが、お気持ちをお伺いしてもよろしいですか?〉 〈率直に嬉しいですね〉 〈知らせを聞いた時はいかがですか?〉 〈奥さんと夕食の準備をしている時に連絡がきたんですけど、二人で興奮してしまって、夕食どころじゃなくなってしまいましたよ。結局デリバリーを頼みました〉 〈ええっ⁉︎ もう結婚されてるんですか⁉︎〉  女子アナが悲鳴にも近い声をあげると、夏樹先生はより一層嬉しそうに笑った。 〈はい、昨年結婚しました〉 〈お早いですね〉 〈僕の一目惚れで。他の誰にもとられたくなくて押せ押せで結婚したんですよ。今回の賞も奥さんに喜んでもらえたのが嬉しいです〉 〈愛妻家なんですね。それでは愛する奥様に一言お願いしてもよろしいですか?〉 〈はい。透子さん、見てますか。透子さんと出会えたおかげでとれた賞です。透子さんと出会えたから白黒だった世界に色がつきました。透子さんの存在が俺の幸せです。透子さんに幸せにしてもらっている何倍も幸せにしますから、これからもずっと一緒にいてくださいね。愛してます〉  ーーああ、どうりで。  昨夜、締め切り明けにしてはやけに悪戯っぽく笑ってるなとは思ったけれど、こういう事だったのか。  理解したのと同時に携帯が震え出す。メールがきてはまた震え、止まったと思えばまた着信。  編集長、班長、先輩達に先生達まで。こんな朝早くに何人が見てるんだろう。  自分でもわかるくらい顔中に熱がこもる。これ以上見ていられなくて、すぐさまテレビを消した。 「もうっ……」    熱い頬に手を当てて俯けば、描きかけの原稿が目に入る。久しぶりの『自分の』絵だ。心を落ち着けるために再びペンをとった。  ペンは忙しなく動き、黒いインクが真っ白な世界を埋めていく。自分が作り上げたキャラクターが漫画という世界を作り上げていく。    きっとそろそろ旦那様が起きてくる。  文句もあるし一緒に朝食をとりたいから、それまでにこのページのペン入れまでは終わらせたい。  そこまでできれば今日中に完成する筈だ。  タイトルはーー 『漫画から始まる恋はない』 完結
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