ニ、

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 西川さんはいつだって優しい言葉をかけてくれた。  クラスメイト達よりずっと大人で、椅子を引いてくれたり扉を開けてくれたり、立ち居振る舞いもスマートだった。色々な事を教えてくれて、たくさんの経験をさせてくれた。  鮮やかな色のスーツを着こなす姿はカッコ良くて、会う度に心臓がドキドキした。  恋に落ちるまで時間はかからなかった。 「西川さん! どうしたんですか? こんな所で、」 「ちょっと早めにこっちに来れたから、この辺で待っていたら会えるかと思って。一緒に歩こう。途中で打ち合わせ用のケーキでも買っていこうか」 「はい!」  西川さんに会えるのが嬉しくて。 「どうですか…」 「うん、いいね。コマ割りもうまくなってる」 「やった……」 「次はこのライバルキャラを際立たせてみたらどうかな。読者が共感や同情をしてしまうような設定を付け足すか、もう少し嫌な奴にしてしまうか。読者の心を掴むのはキャラクターだ」 「はい! ありがとうございます!」  いつからか西川さんに褒められたくて漫画を描いていた。  西川さんがいて、家族が喜んでくれて、学校中の人が注目してくれて、たくさんの人が読んでくれる。漫画を描くのが楽しくて仕方なかった。
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