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「まめ?」
「ああ、●●寺の檀家さんから小豆を頂いて。マリさんがおぜんざいにしてくれるいうんで、真柴さんもあとでどうぞ」
「そうそう、なんなら鍋ごと持ってって」
繰り出される穂高とマリさんの勧めをさらりと断るべきだったのかもしれないが、既にそんな雰囲気ではなかった。遼子は諾々と、ではあとで頂きますと頭を下げていた。マリさんも山科も、そして穂高も、地味にいいだけ強引な人たちである。
そんな遼子の葛藤にはちっとも気付かないふうで、穂高はのんびりと首を傾げながら、呟くように続けた。
「ばあちゃんのレシピなんです。うちのおかん、料理がぜんっぜんダメで、もうマリさんしか再現できひんので」
「そうなんよ、もう、りょうこちゃん……あ、こっちの遼子ちゃんやのうて、小林の涼子ちゃん、ぶきっちょでねえ」
「は? りょうこ?」
思わずマヌケな声が出た。
「ああ、うちのおかんも涼子なんです」
それはまた……妙な偶然があるものだ、と軽く驚いていた遼子だが、続くマリさんの言葉に本日一番の衝撃を受けた。
「それがねえ、みよちゃん、こっちの遼子ちゃんのお母さんにゃけど、みよちゃんがね、小林の涼子ちゃんのこと大好きで、いつか娘ができたら名前もらお、とか言うてたの、ほんとになるとはねえ」
「え、ええええっ?! うちのおかんと、こちらの、え、えっと、お知り合いなんですか?」
「涼子ちゃん、うちの高校の王子様やってん。女子校でね」
「王子?!」
「まあ、うちで一番、女子にモテるのおかんにゃから」
まさかを通り越して、開いた口がふさがらない。
この小林家とそんな縁があったとは……誰か教えておいてよ!と遼子は心の中で抗議したが、もちろんその相手はいない。
母と、そういう昔話をした記憶はない。
大人しい、優しいひとではあったけれど。
彼女は、どのような高校時代を、植木屋の娘として、どんなふうに、今更ながら。
そして小林涼子さんとは、どんな人なんだろうか……と困惑したまま、ふと穂高を見上げると、彼はないないと手を振った。
「僕はあんまり、いうか、全然似とらんので。弟たちのがけっこう似てますねえ。せやった、たぶんお正月の、箱根の写真とかネットにあるんで、参考までにご覧になったらええですよ」
「え、え? おとうと?」
「小林兄弟、駅伝、でググるとわかる思います」
「はあ……」
はこねえきでん?
柔らかく笑う穂高には申し訳ないが、あまりの情報過多に、どうしていいか分からない。
呆然とする遼子だったが、なんとか気を取り直して本来の仕事に取りかかり、穂高とマリさんの二人も母屋に戻っていったのだった。
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