永続シークレットガーデン

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 さて、と山科は姿勢を変えた。 「ずいぶんとお引き留めしてしまいました。あ、この時間も勤務時間に入れてもらっていいので」 「いえ! さすがにそれは!」  と、あたふたと食器を片しつつ、自身の道具を整える。空いたペットボトルを取り出そうと、道具袋を探っていると、山科が遼子のスケッチブックに注視していた。 「あ、すみません、これは怪しいあれではなくて、作業の記録に」 「いや、そうではなく……真柴さん、ひょっとして植物にお詳しいですか?」  記録ついでに、庭に生えている草花をいくらかメモしていた。遼子が曖昧に「はあ、すこし」と頷くと、 「じゃあ、この庭の野草とかもある程度わかりますか? や、私、植物にはまったく明るくなくて。雑草と間違えて抜いてしまいそうで、なかなか草取りができないんですよ」 「ああ、特に野草はシーズン過ぎると、慣れないと分からないですよね」  花が付いてる時期ならともかく、そうでなければあっという間に雑草に紛れる。  あのへんのオミナエシやナデシコなんかすごく危険だ、などと考えながら遼子が庭を見渡していると、なにやら気付いた様子の山科が「ちょっとお待ち下さい」と部屋の中に引っ込んで、今度はタブレットを持って現れた。 「今の大家もまったく詳しくはないんですが、どうも小林先生や娘さんが好きだったようで。うっかり抜いたら間違いなく命が危ない」 「ええっ?!」 「そのスケッチに、分かる範囲で名前を追記してもらえると嬉しいです。あとでコピーさせてもらっていいですか。で、このタブレットで写真が撮れるので、その番号を生えてる位置に書き込んでもらって……写真に植物の名前をラベリングしてくれてもいいです。あとで電子ファイル化してマッピングしますので」  タブレットの操作方法を簡単に説明しながら、山科は立て板に水と頼み事をしてくる。なんというか、わりと強引だなと思いつつも、その真剣さがなんだか可笑しくて、遼子は笑うのを堪えた。 「あっ、もちろんこの分の日当は出しますので」  さらりと言われて、また、えっと声が出た。遼子は顔の前で手を振って断る。 「や、ええですよ! そんなん、たいしたことないです」 「いいえ、よくないです。知識とスキルには価値があるんですよ」  そう真顔で頷く山科に、先生も真面目ですねとうっかり突っ込むところだった。やっぱり可笑しい。  仕方なく、それではお言葉に甘えてと返しながら、この分では秋にも一度来ないと網羅できないだろうなと思ったりもする。恐らく来年の春になってようやく、答え合わせが出来るのではないだろうか。  遼子が少々、遠大な?計画を立てつつ庭を眺めていると、山科がぽつりと、 「そうか、親方はこれも見越してたんですかね」  とだけ。
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