永続シークレットガーデン

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 口にしてから、いきなり呼び捨てはどうか、と気付いたが遅かった。  そして、それ以上に二人が一斉にわいた。 「まっ、たかちゃん、よかったやないの、気付いてもらえて!」 「や、最近は前より気付かれるようになったて!」 「昔なんか、商店街ふつうに歩いても誰も気づかんかったのにねえ」 「マリさんひどい……」  などという二人のやり取りを聞きながら、遼子はようやく理解した、デリケートの意味を。  そうか、小林家の当代はプロ野球選手か…!  これは確かに、ちょっと……いや、相応に気をつけなければなるまい。遼子自身はほとんど興味がないし、父もそうでもないが、職人や出入りの業者には野球好きもいる。人気球団のエースという訳ではないが(失礼)、小林穂高といえば地元出身のプロ野球選手として知られてはいるし、何より、 「あ、でも真柴さんなら、商店街のカレンダー、ご覧になりました?」  と訊いてきた。マリさんが首をかしげる。 「カレンダー?」  そうそう、と今度は遼子と穂高が頷いた。 「はい、昨年末、商店街の会長さんが挨拶ついでに持ってきてくれはって。うちのお店にも家にも貼ってあって、毎日見てるので……どっかで見たことあるなあって」 「うーん、いちおう宣伝にはなってるんですねえ。あれ、祐輔さん、というか赤谷さんとこが販促用に作って、商店街に配らはったんです。京都出身の選手集めて、あそこのスーツ着た写真使うて」 「相変わらず遣り手やねえ、赤谷三姉妹」  穂高の言葉通り、そのカレンダーはスーツ姿の写真で作られていた。  赤谷紳士服の末っ子長男は穂高のチームのエース格だが、この近所にグラウンドがある野球強豪校のOBで、近隣の商店街も野球部を後援している。その縁で真柴植木店にもカレンダーが配られているのだが、ガタイのいい青年たちのスーツ姿に、最近のプロスポーツはファンサービスに熱心だなとちょっとだけ呆れていたのだが(恐らくそれなりに需要はあるのだろう)、赤谷紳士服の戦略だったのかと遼子も妙に納得した。 「でもあれ、業務用の限定品いうて、かえってプレミアついてネットに出されてしもうて」 「あらら、最近はなんでもそうやねえ、抜け目ないいうか」 「ねえ。祐輔さんとか、ユキちゃんは固定ファンも多いから。赤谷のお姉さんら、一般発売すればよかったー言うて」 「……そこでそういう発想なんがさすがですね」  遼子の正直な感想に、うんうん、と穂高とマリさんが赤べこになっている。  すっかり世間話になっていたのだが、ようやくそこでマリさんが「しもうた、もうそろそろお豆を煮ないと」と言い出した。
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