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結局、今度は穂高とマリさんの三人で、ぜんざいまで頂く長めの昼休憩までしっかり取り、やっと最後の紫陽花にかかっていた頃合いだった。
「すみません真柴さん、ちょっと」
と穂高が縁側から庭に降りてきた。山科先生のタブレットとタッチペンを手にしている。
「マッピングの続きですね?」
「お手数かけます。僕も植物はほんまによう分からんので……昔、セリを引っこ抜いてじっちゃんに怒られましたし」
「あぁ、アレはちょっと難しい思いますよ」
おかげで次の年は七草粥が六草になりました、としょんぼりする穂高からタブレットを受け取る。トレーニングウェアからセーターにジーンズという格好になった穂高は、確かにそのあたりに居そうな青年ではある(抜群のスタイルはともかく)。
遼子が秋の時点のファイルを確認していると、そういえば、と穂高が切り出した。
「この庭に新しく紅葉を植えたい思うんですけど、どうですかね?」
「もみじ、ですか……うーん、そうですね。庭木なら1本だけ入れると佳いかもしれません。形も色も華やかですし」
遼子の言に、穂高は興味深そうにふんふんと頷く。寺社にはもちろん紅葉が多く様々な種類があるが、和風にも洋風にも合い、姿がいい紅葉は一般家庭の庭木としてもあんがい重宝する。
「丈夫で育てやすいんですが、寒暖差がないと色づかないので、植えるなら道路に面していない側ですね。あと形を決める剪定が少し難しい思いますので、最初のうちは見させてもろうたほうが」
「なるほど。あの蔵の近くとかどうでしょう?」
「ああ、そうですね、日中影にならない位置ならちょうどええですね」
元々庭木の少ない庭だ、一本立ちの紅葉なら野草を引き立てるような気がする、と遼子が胸の内で算段していると、「おかんにはこれから相談するんですけど」と、彼は、囁くように、
「先生の名前なので、毎日見られたらええかな思うて」
そう言って微笑む穂高を見た瞬間、ようやく遼子は気付いた。
冬のこの家が『デリケート』な理由を。
祖父もマリさんも、この秘密を守るためにこの家に出入りしているのだ。おそらく。
遼子はそっとタッチペンを握り直す。
「でもきっと先生、紅葉なんか食えないぞ、とか言うんですよ」
ふふっ、とまた笑う青年が眩しくて、「はは、そうですねえ」と応えながら遼子は俯く。何と言えばいいのだろう、自分の鼓動がやけに大きくはやく感じる。ひりひりするような、胃の裏側を摘ままれるような。
ああ、それでも、この人は、きっと……
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