永続シークレットガーデン

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 そんな中で、真柴遼子にとって、家業が植木屋だというのはあんがい好都合だった。  特に勉強が好きだったわけでも得意だったこともないが、手先はそれなりに器用で体力には自信があった。事務職などのデスクワークには興味がわかず、引っ込み思案で接客は最小限にしたかったし、なにより……植物は好きだった。  遼子としてはそれで十分、だと思っている。  しかし、肉体労働な上、いわゆる職人の世界だ。  女には明らかに不利であったが、親方の孫、社長の娘となれば、なんとか居場所はあった。それでも折に触れ、どうにもならない壁を感じることがあり、そこでそっとため息を呑み込むのが遼子の習い性になっていた。  たとえば、そう、得意先である大寺院などの季節毎の手入れの際に。  勿論、大口顧客の定期的な仕事であり、文化財を守る大切な作業でもある。店でも大事な業務として珍重されていた。ただ、広大な敷地の寺院は、観光名所でもあるので手入れの出来るタイミングが限られており、多くの職人が呼ばれることになる。遼子の店のみではなく、他店との共同になることもしばしばだ。  そうなると、どうにも男の職人達には見えない厄介事がわいてくるのだ。  雪吊りなどは特に力仕事で、しかも池に張り出した木の場合、池の中に入ることになる。水圧や水温を考えると、やはり遼子には分が悪い。あからさまに侮る態度を取る他所の職人もいて、そこはぐっと堪えて、高いところの作業や、手先の器用さや繊細さが求められる箇所に己が力を振り絞るだけだ。  何より誉れの仕事である。  跡取り、とは名言されていないが、店屋の娘としての矜持もある。スケジュール表に件の仕事が書き込まれる時期になると、褌(はしていないが)を締め直す気持ちになる遼子だった。
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