永続シークレットガーデン

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 玄関前に立つと、遼子はその門構えに覚えがあることに気付く。  確かまだ物心ついたかどうかの頃、親方と訪れたことがある。よく笑う婦人に祖父は何度も頭を下げていた。それから、背の高い紳士が庭にある梅の木に声をかけて、そして……  と、遼子が思い出をかき回していると、 「あらあ、今年は遼子ちゃんやの?」  まるっこい女性がドアからひょっこりと顔を出し、遼子を気安く呼ぶ。  その人は先年、早くに亡くなった母の友人、マリさんだった。遼子が子どもの頃からの付き合いだ。  元はといえば真柴家の近所の生まれで、母とは中学高校と同じだったという。その後、このあたりに嫁いだはずだが、母が常に名前で呼んでいたので本名は知らない。しかし盆暮れ正月だけでなく、ちょこちょこ真柴家を訪ねて来ては、賑やかに話散らしていくので、姓以外のことはわりとよく知っている。大人しかった母とはまったく逆にお節介で出しゃばり(本人談)でずっと学級委員だったこととか、短大を出た後は某百貨店のエレベーターガールをやっていたこととか、産んだのが男ばかり三人で娘に憧れていたこととか。  おかげで今でも遼子に逢えば必ず「きれいになった」と真剣に言ってくれる人でもあった。正直、一般的には綺麗どころか男前と評される遼子にしては、気恥ずかしいを通り越して気まずいくらいだが、本人はいたって本気なので、そこは黙って受け取っている。  そのマリさんが何故ここに?  謎だった今の姓は『小林』だったろうか、と内心首を傾げつつ、遼子は事情を説明する。 「ええ、親方、祖父が先週、ぎっくり腰で」 「ああー、もう、お父さんもお年やねんから。腰は一度やるとクセになるからねえ。そんで、今回は遼子ちゃんが?」 「は、はい。たしか春先に剪定した寒椿をと」  せやった、虫を気にしないといけない頃やね、とマリさんは振り返って庭の生垣を見遣る。 「えっと、マリさんがこちらのオーナ……」 「あはははは、違うちがう! なんやろ、家政婦?みたいなもん。あ、とりあえずこっち、入って。待っとってね」  そう言いながら遼子を庭の方に案内し、自分は縁側から中に声をかける。 「センセー、もう起きはった?」  先生というのが、小林先生なのだろうか。  遼子が唖然とするなかで、マリさんはずかずかと、それはもう我が家のように母屋に分け入っていった。いくらか物音がしていたが、すぐにやれやれといった様子で戻ってくる。 「ちょっとねえ、センセ、朝方、大学から戻らはって。あとで挨拶してもらうから、もう始めてもらってええよ。あ、お手洗いはこっち、勝手口から入って、」  と、とんとんと話を進めるマリさんの後を追いながら、遼子は(小林先生は大学の先生なのか?)と、またもや首を傾げる。マリさんは家政婦といっていたが……あのときの婦人や紳士とは年齢が合わないような、とまだ状況を飲み込めていない彼女に、マリさんは朗らかな笑顔で言うのだ。 「じゃ、何かあったら呼んでちょうだい。おねがいね」
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