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まあ……あとでいいか。
と、遼子は腹をくくる。もともと家庭の事情や人間関係を気にする方でもない。それより仕事だ。
今日は薄曇りで気温も湿度も程々、ありがたかった。脚立や鋏などを下ろし、改めて小林家を見渡してみると、素朴だがずいぶんと豊かな庭だった。
目立つ樹木は寒椿の生垣と母屋と蔵の間にある梅の木で、あとは母屋の近くに紫陽花がひと群あるが、それ以外は草花が主だ。ざっと見た限りでも……なんというか、フリーダムである。タチアオイ、竜胆や萩、菊、たぶん撫子などがそっと植わっている。
おそらく、確固たるイメージがあったわけではなく、好みのものを気の向くままに植えているのだろうが、それぞれが主張しすぎず、奇妙なバランスで成り立っていた。
誰が作った庭なんだろうか、と思いつつ、遼子は本日のメインである寒椿と向き合う。育てやすい庭木だが、チャドクガがつきやすいので、夏になる前に確認しておかないといけない木だ。それと、あちらの梅はだいぶベテランのようだが、伸びすぎた枝は落としておいた方が良いだろう。
そう考えながら、遼子は道具袋から小振りのスケッチブックと鉛筆を取り出す。簡単な庭の見取り図と植わっている樹木と草花をメモしていく。色々試した結果、自分の手を動かして観察しながらプランを練ると仕事が進めやすいことが解った。方角、日当たりや勾配、母屋からの距離などを考えながら必要な作業や手順を整理していく。
そうしてイメージする、こ季節毎に変わりゆくこの庭を。
あの寒椿が咲く頃、この庭はどんな色をしているだろう?
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