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山科が煙草に火を点けると、パチパチと音がした。
ゆらりと立ち上る煙は、独特な香りがする。お香のような。
勢い遼子も訊ねていた。
「変わった匂いですね」
「ええ、ガラムというインドネシアの煙草です」
ほほう、と山科の手元を覗き込むと、日本のものより確かに長い。そしてボディには点々とシミのような模様がある。
「実はだいぶ前に喫煙は辞めたんですが、春にちょっとした縁でもらい受けましてね」
言いながら、山科は金と赤の箱から一本取り出して、遼子に差し出した。
「ひとに勧めるにだいぶ重いんですが、まあ話のタネにどうぞ」
ありがとうございます、と遼子はおずおずと受け取っる。ひと通り眺めてから、匂いを嗅ぐとやはりほとんどお香のようだ。思い切ってフィルタを咥えると、
「あまっ」
「ですよねえ」
びっくりするような甘さである。これは日本はもちろん、輸入物のなかでもかなりの珍品なのでは、と遼子は改めてガラムを見詰める。
ただ、だからこそファンが付きそうだな、というのも解る。嗜好品とはそういうものだ。
沈黙する遼子を促すように、山科は佳い声で歌うように言う。
「ある先生の形見分けですが、あまりに独特でなかなか、日常的に吸うにもね。ま、線香代わりです。大家も承知の煙草なので、真柴さんも遠慮なさらず」
「あ、はい」
おっかなびっくり、改めてフィルタを口に咥え、ライターでそっと火を点けた。やはりパチパチと音を立て、エキゾチックな薫りが漂う。なんとも不思議な感じがする。
たしか……祖父が好んでのでいるのは、ハイライトだったか。
あれはエキゾチックとは無縁だ、と、そんなことを思った。
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