第三話 太陽

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第三話 太陽

 学校がない日曜日。今日もお父さんとお母さんはお仕事でいません。だけどいいのです。もう寂しい想いはしなくていいのです。  だって……。 「よーっす!リエ!」 「あ、おはようございます、ウェルさん!」  私に会いに来てくれる、お友達が出来たのですから! 「オハヨー……ゴザイマス……?なんだそりゃ?人間界特有の呪文か?」 「へ……?は朝の挨拶、ですよ?」 「……?」  私が説明しても、ウェルさんは眉間に皺を寄せて、うんうん唸っていました。もしかして……。 「……ウェルさん、ひょっとして、朝を知らないんですか?」  「へっ?あー……うん、まあな……」  私の質問に、ウェルさんは目を逸らしてしまい、あはは、と気まずそうに笑いながら頬をポリポリと掻いていました。  そして、こう続けます。 「少なくとも、魔界じゃあ聞いたことのねえ言葉でな。いや、魔界以外の世界のことは学校で教えられるから、学校に言ってりゃあわかったかもしれないけどよ」 「……行ったことないんですか?学校」 「……うん。勉強めんどっちーから」 「ダメですよ!お勉強しなきゃ、立派な大人になれないんですからね!」 「はは、おちびちゃんにソイツを言われちゃあ世話ねえなぁ……」  学校に行っていないウェルさんの言葉を聞いた私は、腰に手を当てながら、ちょっぴり怒ってしまいました。  ウェルさんは何がおかしいのか、私を見てクスクスと笑っています。すると、ここでわたしの頭の中の電球が、またキラリと光りました。 「わかりました!それなら今日から私がウェルさんの、先生になります!」 「あん?先生?」 「はい!これからウェルさんがわからないことは、私がなんでも教えますからね!」  えっへん、と自信満々に胸を張りながら、私はそう宣言しました。ウェルさんはポカン、と口を開けて私を見つめていましたが、やがて、可笑しそうにケラケラと笑い始めました。 「あははっ!ホントーに面白いな、エリは!そんじゃあ、これからはお願いしようかな?エリ先生?」 「はい!それではまず、朝についてお勉強しましょう!」  そう意気込むと、私はいそいそとクレヨンを取りだし、スケッチブックの新しいページを開きました。  まず、灰色のクレヨンで、下の方に四角いもの……街を表す絵を描いて、その後上の方に、オレンジのクレヨンでニコニコマーク付きの丸……太陽を描きました。最後に、黒いクレヨンで雲を描き、水色のクレヨンで、空を表すように全体を塗って、完成です。  絵が完成した私は、早速ウェルさんのお勉強を始めました。 「私たちの世界には、っていうのがあります。このオレンジの丸が太陽ですよ。太陽がお空に登ると、街全体が明るくなって……これを、っていいます。太陽が沈んじゃうと、夜になって何にもみえなくなっちゃうんですよ」 「へえ……」  私は、太陽のこと、朝のこと、夜のことを一生懸命教えてました。勉強はめんどくさい、なんて言っていたウェルさんも、相槌をつきながら真剣に聞いてくれたので、とても嬉しくなりました。  私のお勉強が終わると、ウェルさんはグイー、と背伸びをしました。 「太陽ねえ……俺たちの世界、魔界にはそんなものはなくて、ずーっと暗いまんまだったからなぁ…人間界に初めて来た時はすげー眩しくて、どっかにでっけー蝋燭でもあるんじゃねえかと思ったぜ」 「ふふ、ウェルさんてば、おもしろーい!」  ウェルさんの勘違いがあまりにもおかしかったので、私はついつい笑ってしまいました。ウェルさんも、私に釣られて一緒に笑っていましたが、ふと、暗い表情をして、俯いていました。 「太陽、か……」 「……ウェルさん?」  悲しそうな表情をしたまま黙り込むウェルさんを見て、私は心配そうに声をかけると、ウェルさんははっ、と我に帰ってくれました。 「あ、わりぃ……太陽って聞くと、どうしてもやな奴を思い出しちまって、な……」 「……?ウェルさん、太陽は知っていたんですか?」 「名前だけ、な……。っつーとこに、って呼ばれてるやつがいてさぁ……すげー嫌いだったのよ……ま、天界のヤツらはみんな大嫌いだったけどさぁ……」  そう言ってふかーいため息を着くウェルさん。……。絵本でその名前を聞いたことはありました。たしか、天使や神様が住んでいる場所……。  どうしてウェルさんが天界が大嫌いなのか、小さかった私にはわからなかったけれど、寂しそうに笑う彼を見て、少しだけ、胸がチクリと痛みました。 「……ま、太陽神は大嫌いだけど、あんたが描く太陽は大好きだぜ!」  そう言ってウェルさんは、私の絵を手に取って、笑顔を浮かべました。  先程の寂しい笑顔とは違う、太陽のように眩しい笑顔。私の描いた絵で、ウェルさんはそんな笑顔を見せてくれる……。それならば、今まで以上に絵を描くことを頑張らなければいけない、と私は思いました。
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