第一話 出逢い

1/1
前へ
/4ページ
次へ

第一話 出逢い

 私のお父さんとお母さんは、いつもお仕事でバタバタしている人でした。  朝早く起きてお仕事へ向かい、夜遅くに帰ってくる、そんな生活を送っていたので、一緒にご飯を食べることも、どこかへ遊びに行くこともありませんでした。  同い年の友達もいなかったので、おしゃべりの相手は、いつもお人形さんだけ。  そんな私が大好きなことは……。 「できた!!くまさん!!」  そう、お絵描きです。茶色のクレヨンで紙いっぱいに描いたくまの絵を、お人形さんの前に置きます。すると、“上手に描けたね、エリちゃん!”という声が聞こえてくるのです。  もちろん、お人形さんが本当におしゃべりできるわけではありません。でも、小さかった私には、お人形さんが本当にそう言ったように聞こえたのです。 「次は何を描こうかな?うさぎさん?いいよ!描いてあげるねー!」  お人形さんとおしゃべりをしながら、私はスケッチブックのページをめくり、新しい絵を描き始めます。  そんな時……窓の外から、男の子の声がしました。 「公園でサッカーしようぜ!」 「待ってよケンちゃーん!」  楽しそうにはしゃぐ、私と同い年ぐらいの子どもの声……。それを聞いて、私の胸はきゅう、と締め付けられました。 「……いいなぁ」  蚊の鳴くような声で、小さく呟く。私も、本当は欲しかったのです。お人形さんじゃない、生きているお友達が……私と一緒に、お絵描きをしたり、おしゃべりをしてくれるお友達が……。  神様、私はよくテレビで流れる最新のゲーム機だとか、おもちゃとか……そんなのはいりません。だけど、私と一緒に遊んでくれる……私と一緒に笑ってくれる、お友達をください……。  心の中でそう願っていると、私の目から、一粒の涙がこぼれ落ちました。涙は、ピンクのクレヨンで描かれたうさぎの絵を濡らし、絵は少しだけ、(にじ)んでしまいました。  ……その時。 「ああーーーッ!?」  すぐ近くで、男の人の声がいたのです。びっくりして顔をあげると、さっきまで何も無かったお人形さんの隣に、背の高い男の人が座っていたのです。  男の人は、深いため息をついていました。 「何やってんだよ!せっかくいい感じに描けてたのにさぁ……!!ちょっとのミスでも台無しになっちまうんだぞ!」  私はぽかん、と口を開けて、その男の人を見つめていました。……いえ、正しくは、その男の人の格好です。だって、男の人の頭には、黒く光る大きなツノ、背中には、黒く尖った大きな翼が生えていたのですから。  ……まるで、絵本やアニメに出てくる、あの悪魔のように……。  すると、男の人は、ずっと見ていた私の視線に気づいたのか、びっくりした表情で私の方を見つめ返していたのです。そして、震える声でこう呟きました。 「……まさか、見てるのか……?俺のこと……」 「……はい」 「嘘だろぉッ!?」  ……そう、これが、お絵描きが好きな私と、変わった悪魔さんの出逢いだったのです。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加