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第一話 出逢い
私のお父さんとお母さんは、いつもお仕事でバタバタしている人でした。
朝早く起きてお仕事へ向かい、夜遅くに帰ってくる、そんな生活を送っていたので、一緒にご飯を食べることも、どこかへ遊びに行くこともありませんでした。
同い年の友達もいなかったので、おしゃべりの相手は、いつもお人形さんだけ。
そんな私が大好きなことは……。
「できた!!くまさん!!」
そう、お絵描きです。茶色のクレヨンで紙いっぱいに描いたくまの絵を、お人形さんの前に置きます。すると、“上手に描けたね、エリちゃん!”という声が聞こえてくるのです。
もちろん、お人形さんが本当におしゃべりできるわけではありません。でも、小さかった私には、お人形さんが本当にそう言ったように聞こえたのです。
「次は何を描こうかな?うさぎさん?いいよ!描いてあげるねー!」
お人形さんとおしゃべりをしながら、私はスケッチブックのページをめくり、新しい絵を描き始めます。
そんな時……窓の外から、男の子の声がしました。
「公園でサッカーしようぜ!」
「待ってよケンちゃーん!」
楽しそうにはしゃぐ、私と同い年ぐらいの子どもの声……。それを聞いて、私の胸はきゅう、と締め付けられました。
「……いいなぁ」
蚊の鳴くような声で、小さく呟く。私も、本当は欲しかったのです。お人形さんじゃない、生きているお友達が……私と一緒に、お絵描きをしたり、おしゃべりをしてくれるお友達が……。
神様、私はよくテレビで流れる最新のゲーム機だとか、おもちゃとか……そんなのはいりません。だけど、私と一緒に遊んでくれる……私と一緒に笑ってくれる、お友達をください……。
心の中でそう願っていると、私の目から、一粒の涙がこぼれ落ちました。涙は、ピンクのクレヨンで描かれたうさぎの絵を濡らし、絵は少しだけ、滲んでしまいました。
……その時。
「ああーーーッ!?」
すぐ近くで、男の人の声がいたのです。びっくりして顔をあげると、さっきまで何も無かったお人形さんの隣に、背の高い男の人が座っていたのです。
男の人は、深いため息をついていました。
「何やってんだよ!せっかくいい感じに描けてたのにさぁ……!!ちょっとのミスでも台無しになっちまうんだぞ!」
私はぽかん、と口を開けて、その男の人を見つめていました。……いえ、正しくは、その男の人の格好です。だって、男の人の頭には、黒く光る大きなツノ、背中には、黒く尖った大きな翼が生えていたのですから。
……まるで、絵本やアニメに出てくる、あの悪魔のように……。
すると、男の人は、ずっと見ていた私の視線に気づいたのか、びっくりした表情で私の方を見つめ返していたのです。そして、震える声でこう呟きました。
「……まさか、見てるのか……?俺のこと……」
「……はい」
「嘘だろぉッ!?」
……そう、これが、お絵描きが好きな私と、変わった悪魔さんの出逢いだったのです。
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