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6月1日
鳥追い凧という畑の防鳥用品がある。年々出来がよくなっていて、田んぼの上空4尺ばかりを縦横無尽に風にぶん回されていたりするアレだ。狩る側の鳥類に似せた凧は風が無くても滞空ポーズのままぶらぶら下がっている。曇りの今日のお昼ご飯を相変わらず駐車場で食べていた尚理はお客様への貸し出しトラックの上で揺れるカイトくんに気がついた。幌の上でぶんぶん舞っている。なんだあれ。なんのデモンストレーションなの。今朝出勤してときには無かった。クリームチーズとレモンジャムをサンドした食パンを食みながらカイトくんから目が離せない。不自然すぎる。こっちの駐車場はお店の裏手だ。風が止むとカイトくんは翼を広げたままトラックの幌の上で留まった。ドンピシャの位置取りだ。尚理ははっとする。
「セキレイ、、」
トラックのドアミラーに居着いているセキレイに対しての嫌がらせだ。いつもトラックのドアミラーに居る可愛い小鳥。長い尾の黒白ボディはほっそりで、チョンチョン跳ねて歩き足元を低く飛び、尚理がチィチィと鳴き声を真似ると振り返る小鳥だ。お店の屋根から軽トラック、電線から軽トラック、アスファルトから軽トラックへと日長遊び歩いている。餌付けしようと手持ちのパンをちぎって投げても懐いたりしないが、とにかく可愛い。素早く走る警戒心の高い小鳥だが、とにかく可愛いのだ。その姿を愛でるのが尚理のお昼と帰りの愉しみになっている。
だが店には実害がある。
鳥類は体を軽く保つために排泄は時も場所も選ばない。そしてあのセキレイはトラックのミラーを止まり木と定めて飛び回っている。黒いエンボスのドアミラーは日に日に糞によって白くなっていく。トラックの屋根にも助手席のガラスにも白い筋が残る。鳥なのでお腹の案配は調整できない。鳥には何の問題もない営みだ。問題は貸し出しトラックだ。お客様に貸すトラックのミラーがそんな不衛生な状態ではよくない。洗い長しても居着いているのだから垂れ流しにおいつくわけがない。試行錯誤の末の、なのか、満を持して、なのか鳥追いカイトを縁石脇の芝生にブッサした。鳩に続く鳥VS店長である。
「可哀相にセキレイ。」
風に身を委ねぶんぶん飛び回る鳥形凧は勢い余ってトラックの幌にぶつかって跳ね返されている。
「カイトくんも可哀相。」
鳶に見立てられた愛嬌のある凧にもセキレイにも尚理はひどく同情した。鳥好きが過ぎる。
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