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日付がまだ変わらない時刻に隣の部屋で一仕事(占いを)していた尚理は、げんなりしていた。 整体師の訓練を終えたという流川舞紀果(るかわまのか)からの依頼は立て続けに4回目になる。同棲する彼と別れるかどうかという自立要求と依存要求が絡む結婚適齢期過ぎのお悩みだった。この先に結婚は見えないと占い結果を認めついでにやりたいことがあるのでしょう?と水を向ける。次は仕事を辞めるかどうかを悩んでいる、と懇切丁寧な手紙が来て整体師を目指しており向いているだろうか?と聞かれた。次は実家(田舎)に帰るべきかどうかを尋ね、そして今度は無事に田舎で整体師の看板を掲げることになったのだが、と手紙が始まる。どうでもいい。どうでもいいが、と尚理は警戒を引き上げる。依存要求高めな女だ。黙って座ればピタリと当たる、なタヌキチ崇拝者は居る。だから、今時に郵便振替でしかも紹介のみなんていう商売が成り立つのだ。 「いや、もうこれはムリ。」 筆圧強めで綺麗な文字ではないが縦書きでびっしりと便箋に書かれた時候の挨拶から始まるタヌキチさまのおかげて人生うまくいってますー的な近況報告がつらつら並ぶ手紙の最後にかかれたお悩み相談、というか依頼。 「整体の店の名付けとか出来ませんて。」 彼女の手紙からは祈祷師タヌキチのイメージがありあり浮かぶ。ハチマキにロウソクぶっさし白装束で紙垂を振り回し周囲には炎がメラメラ燃えさかり、キィェェーと叫べばあらふしぎ、鏡面に文字が浮かび上がった。それを何処からか取り出した半紙に筆でさらさらと書き付け、スタッと天井から降りた忍びに文を渡して、、 「いや、私、西洋系占い師だって。時代劇の江戸屋敷に囲われてる的なのおかしくない?流川さん誰の紹介だったんだろう。」 名前、名付け、いや、無理だ。どうやってカードから読み取ればいいのか見当もつかない。せめて、二択ならまだなんとかなった。漢字、平仮名、片仮名、またはそれらの組み合わせ、なんでもありが過ぎる。 『流川さん。貴女が決める好きな名前が何より良いでしょう。ご自分の人生をご自身の決断で行動している未来は明るいようです。御健勝をお祈りいたします。』 「今回の見料は不要です、タヌキチ、と。短いか。まぁ見料貰わないし。、、お祈りメールで通じるといいけど。」 ドライタヌキチはカードを山に戻し、部屋を後にする。これでいい。お金を対価に抱き合わせで情も売っているのだ。親身になってはいけない。ずぶずぶと依存するタイプは対応を間違えられない。 だが。 猫は別だ。 汚れてフユカイですけど?なんとかしてくれません?あとおなかすきました。点けた灯りに、なんだよ?と眉間に皺を寄せ、なうう゛と鳴いて辺りを見回しよいしょと動き出す。 「ああっ、、眠いのにぃ、、」 依存度マックスな老猫に尚理は身を削り奉仕するのだ。
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