8:20 約束

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8:20 約束

 横断歩道を渡り終わり、人気が無くなった歩道でほっと息を吐く。  突然の見知らぬ場所がやはり怖いのだろう、トールの服の裾をぎゅっと掴むサシャの両手の白さを確かめてから、トールはディパックの外側面に付いている小さなポケットからスマートフォンを取り出した。 〈えっ……!〉  画面に映る日時に、息を飲む。  今日は、……トールがあの不運な事故に遭う日。 「トール?」  一瞬で全身が冷たくなったトールに気付いたのだろう、トールを見上げたサシャの、トールを気遣う声に小さく頷く。スマートフォンが表示する時刻は、8時20分。8時45分開始の1限授業に間に合うためには、少し急いだ方が良い。 「行こう」  左手で、サシャの小さな右手を掴む。 「えっ?」 「俺の時代の『大学』を見せてやる」  トールの言葉に、サシャの紅い瞳が一回り大きくなった。 「トールの、大学?」 「そう」  目を瞬かせたサシャに大きく微笑んでから、車が入らない、大学の裏門へと向かう道へと歩を進める。 「あ。一つ、『約束』な」  サシャの世界とは形が違う建物群が珍しいのか、きょろきょろと辺りを見回しながらトールの横を進むサシャに、トールは小さく注意事項を伝えた。 「後で全部説明するから、驚いた声は出さないこと」 「……うん」  トールの言葉に不安を覚えたのか、サシャの動きが急にぎこちなくなる。 「声以外は普通にしていて良いよ」 「わ、分かった……」  余りにも極端に揺れ動くサシャに、トールは心の奥底で思わず笑ってしまった。
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