#9 別離

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「十分非常識だろ!」 「姿くらい見ていたいという僕の気持ちもわかってほしいね。ついでに君も一緒に働いたらいい」 「は、ちょ、待て、俺、もう内定し……」 「じゃあ彩佳だけ、僕のそばに」 「ざけんな……っ」 「難しい話じゃないと思うんだけどな」 ソファーに座ったままの大和は余裕の笑みでいう、剛典は舌打ちを歯を食いしばったが。 「──わかった。俺も内定は断る、絶対雇えよ。掃除係でもいいが、正社員でからな」 「もちろんだとも」 出ていく剛典を見送り、大和は小さなため息を吐く。 「──いつか君の気持ちが変わればいいななどと、馬鹿なことを思ってしまうな──」 脳裏に浮かぶ彩佳に語り掛けていた。 ☆ もちろん彩佳は嫌がった、既に大和と肉体関係を持ってしまったことが一因だ。そんなふたりの男に挟まれて仕事をする度胸などない。 「大体、私が大和さんとの結婚を蹴ったって、知れ渡るじゃん……!」 ただでさえ大和の元婚約者も一緒に働いていることは知られているのだ、その上彩佳まで一緒に働くなど、常識ではありえない。当の秋保はまだ残るのだろうか、嘘までついていて、その状況に耐えられるのだろうか。 「でも、振られた本人が一緒にいたいっていうんだぜ? いいんじゃね?」 剛典にしても伝言ゲームのようにした伝えられない。 彩佳は慌ててスマートフォンを手にした、大和の電話に発信するとすぐに応答してくれる。
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