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『やあ、嬉しいなあ、彩佳から電話が来るなんて』
本当に嬉しそうな声に、彩佳は小さくなってしまう。
「あの……この度は、私達のわがままに付き合わせてしまって、申し訳ありません」
『ううん、いいよ。元は僕が無理矢理彩佳に迫ったんだもん、こちらこそごめんね』
素直な詫びの言葉に、彩佳はほっとする。
「あの……剛典から聞きましたけど……私と剛典を雇うって、あの、正気の沙汰じゃないと思います、考え直してもらえませんか?」
『うーん、じゃあ、彩佳は僕と結婚してもらうしかないんだけど』
全然諦めてないじゃないか、と彩佳はこぶしを握り締めた。
「あの……! 私が大和さんとの結婚前提でそちらで働いていたことは皆さんが知っていることですっ、なのに私が別の人と、しかもその人も社内にいるなんてわかったら、大和さんが笑い者になるんじゃないんですかっ!」
『僕の心配をしてくれるの? 嬉しいなあ』
「や、大和さんの心配じゃないですっ! 私も大和さんを振って別の男を選んだ女だって、後ろ指を指されます! そんなの嫌です!」
『だからじゃない』
大和の笑う気配が分かった。
『剛典君がどんな罰でも受けるっていったんだ。嫌がることをするのが罰でしょ』
そうか──彩佳は納得するしかない。大和ができる精いっぱいの復讐なのかもしれない。
黙り込んでしまう彩佳に、父が声をかける、電話を替われという。
父はすぐに名乗りをし、謝罪の弁を述べる。何度も頭を下げる父に、彩佳は何故最初にもっと強く拒絶をしなかったのかと反省しきりだった。
だから。この罰を受けるしかないのだ。
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