286人が本棚に入れています
本棚に追加
/116ページ
#10 それぞれの旅立ち
4月、初出社の日。
既に通い慣れている彩佳に連れられ、大和の元へ来た剛典は大きな声を上げてしまう。
「ふ、えっ、なん……!」
大和の前に立っていた秋保が「あら」と応じる。
「お久しぶりね」
聞いて不思議そうに皆の顔を見るのは田中だ。彩佳が大和との婚約を解消し、新たに婚約をした剛典が来るとまでは聞いているが、秋保の話までは聞いていない。
「ひさっ、えっ、いやっ、え!?」
事情を知る彩佳は大丈夫、大丈夫と剛典の背を叩く。
「少しの間、教育係として、いてくれるって……」
さすがにやばいだろうと彩佳も大和もいったが、秋保は自分以外に誰が教えられるのだと引かなかった。
剛典はじりじりと後ずさりを始めるが。
「逃げるな、小僧」
秋保がぴしゃりといってから笑顔になる。
「大丈夫よ、安心しなさい」
いずれ説明してやらねばと思っている、全ては自分が仕組んだ罠なのだと。卑怯な男のレッテルを負ったままでは可哀そうだ。
「まずは挨拶からよ」
そう宣言する秋保に、彩佳は剛典を押し出し「頑張ってね」と言葉を添えた。
「彩佳はこっちにおいで」
大和が手招きで呼び寄せる。
「おい、てめえ、職場に私情挟むんじゃねえ」
すぐさま剛典が噛みついたが、
最初のコメントを投稿しよう!