#2 いきなりプロポーズ!? ありえません!

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#2 いきなりプロポーズ!? ありえません!

中山彩佳(なかやま・あやか)が大学から帰宅する。以前はバイトをしていたのでずいぶん遅くなることもあったが、就職活動に勤しむ今はバイトは辞め、比較的早い時間に帰宅するようになった。 マンションの5階、錠を開けて玄関へ入る。 「ただいまー」 「あ! 帰ってきました! 彩佳、彩佳ー!」 母の嬉々とした声がする、来客だろうとは玄関を開けてすぐにわかった、見慣れぬ男性用の革靴と綺麗な女性用のパンプスが並んでいたからだ。 「おかえり、彩佳!」 スキップでもしそうな勢いで笑顔で迎えられたのは初体験だ。 「ただいま、どうしたの?」 「大変、大変! 早くこっちへ!」 笑顔の『大変』とはなんなのか、彩佳は手招きされるままに部屋に入っていく。 リビングの上座のソファーで若い男女が立ち上がるところだった、いかにも仕立てのいいスーツを着こなしている、はて、どこかで会ったと思うが、記憶の糸を辿る前に、男が口火を切った。 「ああ、やはりあなただ、中山彩佳さん」 笑顔で呼ばれたが、彩佳は「はあ」としか答えられない。 「普段着の彩佳さんは一段と可愛いですね、リクルートスーツも可愛いですけど」 リクルートスーツという言葉でようやく記憶が結びついた、彩佳は「あ!」と声を上げてしまう、その男はこんなところにはいるはずがない相手である。 慌てて頭を下げた。 「す、す、す、すみません、すぐに思い出せなくて」 「いえいえ、たった1回だけ、小一時間ほど会っただけの男は忘れても仕方ないでしょう」 許してもらえたことにほっとして顔を上げたが、男の笑顔を見てまた恥を思い出した。その数十分だけ会った自分のことを、この男は覚えているではないか。 「いえ、あの、沢渡(さわたり)専務、さま──」 なんとか記憶を呼び起こし名前を呼んだ、男はにこりと微笑む。 「あの、先日はありがとうございました」 男が専務をする『沢渡商事』に、たった4日前に面接に行った。その時もとんでもない失敗をしでかしたことも思い出す。
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