うつろ

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 僕は妄想ににやにやしながら、歯を磨いて社から支給されている薬を飲んだ。これは我が社で治験中の新薬で、我々営業部が第1相試験の被験者にされている。つまり健常男性に少量投与し、問題となる重篤な副作用がないかを調べるのだ。もちろん動物実験で安全性は確認済。なぜ男性限定かって?もちろん、男性は妊娠する可能性がないから。僕ら営業部男子が仕事もなくダラダラしていても解雇されないのは、この治験のおかげだ。  この薬は、少し眠くなるし記憶が曖昧になる。心にポッカリ空洞(うつろ)ができるみたいに。我々は、この薬を「スリーピーホロウ(眠たい空洞(うつろ))」と呼んでいる。確か、ジョニー・デップの映画のタイトルだったっけ?でも、眠くなるのは寝る前に飲めば問題はない。記憶が曖昧になるのも飲んだ後のこと、つまり夜の間だけ。トイレに起きたことを忘れるくらいで、特に困ることはない。夜中に電話がかかってきたらちょっと困りそうだけれど、それを言うならアルコールの方がもっとひどい。
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