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「じゃあ、このメールにノマちゃんが返信したらどうなるかというと。お互い名前も性別も知らない相手同士で、一つ縁ができる形になるわけね。相手がどのような存在なのか、についてはメールを送った側の認識に大きく委ねられることになる。……そこで、こんな都市伝説ができたの。じゃあ、そのメールを返信する時、こっちで相手の存在を“決める”ことができるんじゃないか……って」
セナいわく。
迷惑メールを送られた側が、このように書いてメールを返すと。相手の存在が、“それ”に引っ張られて特殊なものへと変質するらしいのだ。
『森のイヌさん。
私の全部を差し上げますので、私を異世界に連れていってください。
●●より』
この●●、には送り主の名前が入る。フルネームを書くのが理想だが、抵抗があるのなら下の名前だけでも構わない。
すると、森のイヌさん、に送信先が“変質”する。そして。
『いいよ。
今夜行くね』
こう返事が来たら、成功。
その夜部屋で待っていると、“森のイヌさん”が現れて、異世界へ連れていってくれるのだという。
「ええ、迷惑メールの送信元に本名晒すの?それはちょっと嫌だなあ」
私は正直に感想を漏らした。
「あと、異世界に行くのは面白そうだけど、帰って来れないの困る。ランランルーが今年初めて紅白出れることになったんだもん、それ見ないで年越したくないー」
「異世界に行きたくない理由はそれっすか!」
「いやいやいや馬鹿にならん理由でしょ。人間案外、そういう小さなことを喜びとして頑張って生きてるわけですからね」
そう告げると、なんともノマちゃんらしいわー、とセナは肩を竦めた。
「リカちゃんに教えたら、結構ノリノリだったのにね。まあ、普通に風邪引いて休んでるあたり、少なくともまだ試してないんだろーけど」
「本当に異世界に行って貰ったら困るよセナちゃん!成人式の日にみんなで鍋パする約束してんだからさ!少なくともそれまでは現代日本にいて貰わんと!」
「あっはっは、確かにねえ」
話の流れで、私とセナは今日の帰り、一緒にリカちゃんの家に突撃しようと言うことになった。一応はお見舞いである。風邪が本当に酷いのなら会うことはできないかもしれないが、せめてお見舞いの品だけでも持って行きたいし、お母さんに様子を訊きたいところでもあったからだ。あれだけ来ていたメールが途切れがちになっているのは、それだけで心配になってしまうのである。
お見舞いの品のどれを持っていくか。そう相談した頃には、既に先ほどの“迷惑メールを利用して異世界に行く方法”の話はすっかり頭から消えていたのだった。セナが、私よりも先にリカにその方法を教えていたという事実も。
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