平たい皿のスープ

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今私は電車に乗っている。残業帰りの、座れない程度には混んだ車内で、お話に登場するあの丸くて硬そうなパンと平たい皿に入ったスープを思い浮かべている。このセットが私は好きだ。とりわけ薄い皿のこれまた薄そうなスープに強く惹きつけられる。このスープが登場するお話は信用できるとさえ考えている。しかし実を言うと「スープ」なる言葉は苦手だ。嫌いだと言ってもいい。字で書いても発音しても首の後ろあたりがざわざわしていけない。なぜだかはわからないがこれが生理的にと言うものなのだろう。ところが料理そのものや絵に描かれたスープは平気だ。スプーンが皿にかちりとあたる感触や、浅い皿ですっかり冷めたスープの温度を思い浮かべる。得体の知れない実が浮かんだものもあるが、実の正体は肉か野菜か。塩気はあるのか。 どっと人の降りる駅を過ぎた。いつしかパサついた硬いパンをむしり、皿のスープをすすっているような気持ちになっている。平たい皿のスープ定食の物語で満たされる。降りる駅まではあと二駅。ああ、おなかがすいた。
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