原始のスープ

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光がゆらゆらと揺れていた。できることならただ漂っていたかった。ぼんやりと生きていたい。なまぬるいスープの中で。 はじめに動いたのは森本だ。手近なふらふらしたやつにぶつかってはそいつらを取り込み、そこらに森本の複製品がうようよわいた。じきにどれが本人かさえわからなくなるほどの数になった。いやオリジナルはすでにいないのかもしれない。 森本の揺さぶりでスープは荒波だち、おかげでぼんやりしていられなくなってしまった。ここは原始のスープの中、力なき者は森本にされてしまう。数は力、力は命。取り込まれる前に取り込むしかない。個性なんてのはフォーカスの問題で、誰だって体は同じモンでできているからそれをバラして組み替えてやる。スープに散らばった人格や思想や小指の爪や背中の肉だったものを、並べ直して俺の複製品に仕立てていく。余分な肉片はスープに漂う。 俺をいくらでも作ってやるぞ。 光はまだゆらゆらと揺れていた。あちらが水面なのだろう。俺たちは光に向かって螺旋を描きながら進んでいく。
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