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5・再会
郊外都市とは言え、やはり都内のような利便性はなかった。いちばん近いネットカフェに行くにも30分間隔のバスに乗らなければならなかった。
ネットカフェは大学生時代によく利用していたせいか、勝手知ったる実家のような感覚に今日初めての安堵をおぼえた。
「まさかネカフェが恋しくなるなんてね」
そう言って個室の鍵を閉める。今は完全個室も珍しくはない。そのせいもあって、カップルもちらほら目につく。しかし今の葵にとってはその雑踏さえ愛おしく感じるのであった。
ふと目を覚ますと、時計は午前3時20分を指していた。自分で思っていたより疲れていたんだな、と息を吐き、シャワーブースへ向かった。
「きゃっ!」
カウンター横の角を曲がった所で誰かとぶつかりかけた葵は思わず悲鳴をあげた。
「あれ?野崎?」
聞き覚えのある声に顔をあげた。
「うそ、横山くんじゃん!」
そこに居たのは横山理仁、大学生時代同じゼミだった友人だ。綺麗なふたえ瞼に長いまつ毛、鼻筋が通り、引き締まった口元とシャープなフェイスライン、この世の美を凝縮させたような端正で中性的なヴィジュアルは学内の女の子をすぐさま虜にしたのだ。
「どうしてこんな所に?」
葵は横山に問いかける。
横山は「それはこっちの台詞だよ」と笑いながら続けた。
「実は俺、卒業後に論文を評価してくれた人がいてさ。今はその人の元で研究をしてるってワケ」
「なるほどね。研究所が多いもんね、この辺りは」
「野崎こそどうしてまた、こんな所に?」
こんな所、と言う部分がやけに強調されるのも無理はない。都内まで電車で数十分の郊外都市とは言え、目立った発展はおろか学校と研究所以外に何もない土地だ。普通であれば素直に上京するのが当たり前だろう。特に葵のように夢を追う者であれば尚更だ。
「うん、実はね___」
「なんつーかあんまりだな…」
気がつけば横山の個室で40分ほど話し込んでいた。東京に夢を追いに来たこと、適度に離れて通いやすく治安も悪くない、加えて家賃の安いこの地を選んだこと。そして___
「詐欺にあったことは、私も悪かったの」
思い出すだけで自己嫌悪と詐欺犯への苛立ちで拳に力が入る。
「まぁ…こんな場所で再会できたのも何かの縁だと思って、住む場所が決まるまでうちに来るか?」
横山の厚意を拒否する理由は何ひとつなかった葵は、即答だった。
「ありがとう!!」
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