結末

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結末

「申し訳ありません。彼女に忠告するのを忘れてしまいました」  黒服の男は、その光景をモニターで見ながら、上役の女神に頭を下げた。  復活の詞は、蘇らせたい相手の顔写真を目の前において唱えるか、さもなければ苗字、生年月日、死亡年月日など本人を特定する言葉を添えなければならない。それを怠ると、該当者全員にその詞が届いてしまって、ミカの前に現れたたくさんのヨシオみたいなことになってしまうのだ。 「結果としてあの女の一生をあそこで失わせて地獄に落としてしまったことは反省すべきである。しかし、あれは単に写真を見なかったからというだけではない。あの女、ミカというのだな、ミカが顔を向けて唱えたときに見ていたのは、窓の外のはるか先、建物の間にそびえ立つ東京スカイツリーだったのだ。それが、あろうことか唱えた詞を増幅させて拡散するアンテナの役割を果たし、現世に未練を残したヨシオというヨシオに届いてしまったということだ。よってこれはミカにとっても、そして研鑽中のお前にとっても、不運だったと言わざるを得ない」 「そんなことが起きるとは……」  黒服の男は、それを聞いて驚いた。 「そのような事情があったことでもあり、今回は不問に付すこととする。以後十分気をつけるがよい」 「承知いたしました。ご配慮、ありがとうございます」  そして、黒服の男は何事もなかったかのように、再び次の仕事へと向かった。
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