第2章. 遭遇

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3つの白色の球体。 それらは、海面から数十mの高さで停止した。 ラブのジェットヘリも、物体の正面100mの位置に垂直降下して留まる。 (TERRAのジェットヘリは、両翼に収納されている、薄くて大きな羽のファンを、ジェット気流で回し、垂直昇降が可能なのである) 「アイ、スキャンを」 機体のスキャン装置を使用し、アイが分析を開始する。 「表面の白い物質は厚いシールドの様で、内部に直径500m程の球体があります。シールドの素性(そせい)は地球上にはない物質で、銀河史によるとアンドロメダ銀河外周のステパール系に似た物質の記録があります」 「惑星ステパールは、銀河帝国と友好関係であった星。しかし…厚さ1kmのシールドとは、内部には何が?」 「シールドにより、情報を得ることはできませんが、やはり生体反応は無い様です」 多国籍艦隊からの連絡が入る。 「オーストラリア艦隊、旗艦ボーエンのウィルソンだ。現在地物体の南西500km。北800kmに中国艦隊を確認」 「中国艦隊が?東シナ海で待機のはず」 「はい、通信しましたが、返信はありません」 ラブに嫌な予感が()ぎる。 「ライオネルのルイス艦長、聞いた?」 「はい。こちらも確認しました。中国出港時に、旗艦『長春』の劉偉(リュウウェイ)艦長から連絡あり、その後は何も…」 テロ組織の裏に、中国の関与が気になる。 「アイ、(キム)大統領へ繋いで」 「ウィルソン艦長、中国艦隊に注意しながら、予定通り南米大陸からの艦隊と合流してください」 「了解」 「ラブさん、(キム)だ、話は聞いた。出港後、直ぐに長春ないで反乱があり、劉偉(リュウウェイ)艦長は、航海長の張偉(ヂャンウェイ)により、殺害されたとの報告があった。例のテロ組織に関与していたものと考える。今は、副官の俊杰(ジュンジェ)が、艦長を務めている」 「なぜ太平洋へ?」 「分からんが、私の指示ではない。残念だが、昨年の戦いで、派遣できる艦隊はもうない」 北海艦隊は半減しているものの、健在である。 艦隊を全て失うわけにはいかない。 また、ロシアへの牽制も必要。 それが、本当の理由である。 ラブには分かっていたし、(キム)大統領は信頼している。 (派遣艦隊はない…か) 「信じます。しかし、冷静に判断して、今の東海艦隊はもう味方ではありません」 「ラブさん…」 「安心してください。隊員のほとんどは監禁されたか、脅迫、或いは気付かずに、上官の指示に従っているだけです。私に任せてください」 「分かった、君に任せるよ」 「了解」 通話を切りかけたラブ。 「ラ、ラブさん!」 「何でしょう(キム)大統領?」 「…本当に、ありがとう」 「当然のことです。貴方を信頼してますから」 通話を切るラブの頬が緩む。 目の前にある物体を見つめた。 (もしかしたら…これは) ある可能性が、ラブの中に芽生えた。 (アイ、新しい回線に全て切り替えて、東海艦隊以外に繋いで) (切り替えました) 「皆さん、中国東海艦隊は、テロ組織 Silent(サイレント) が指揮しています。これからの共通通信はこの回線で行います」 (アイ、太平洋、及び通信衛星の通信を全て傍受して) 「この物体に危険性はないと判断します。これより私は、低空飛行で東海艦隊の旗艦へ南からアプローチします。各艦隊は、この物体の防御に回ってください」 「米・ロ艦隊了解」 「多国籍艦隊了解」 ラブを信じる仲間達。 (アイ、ティークを、戦闘態勢で東海艦隊の上空1500mに待機させて。凛は戦闘態勢でTERRAで待機を) (分かりました、お気を付けて) (貴方達を信じるわ) 目の前の物体に思念を送り、海上ギリギリを旋回して、艦隊へ向うラブであった。
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