第3章. Flare crisis

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〜宇宙ステーション『Kizuna Ship』〜 各ステーションの軌道修正は完了し、不完全ながら、更に外郭に設けられたシールドと合わせれば、地球への直撃は、ほぼカバーできると考えられた。 今は太陽に出現した巨大な黒点群の位置に合わせて、全ステーションとシールドの位置を、アイが修正中である。 最後のシャトルが、地球に向けて離脱しようとしていた。 「後はレイラだけか…」 EARTH(アース)から派遣されたステーション統括責任者、ニコール・H・カーネルソンは焦っていた。 一方レイラは、シャトルの時間が1時間早まったことを知らず、ついに心を決めた。 「レイラ、もう限界だ、早くシャトルへ!」 「ニコール、私は残ります」 「バカな、死んでしまうぞ!」 「実際に何が起きるか予測できません。誰かが残って、対処する必要があります。行ってください」 地球からの連絡も入る。 「何をしている、フレアが発生する前に大気圏内にいないと、手遅れだ。今すぐに離脱しろ」 「そう言うことだ、行くしかねぇ」 T2が、離脱ボタンを押し、ハッチを閉める。 「バシュン!」 最後のシャトルが、地球へ向けて飛び立った。 その光景を見つめるレイラ。 「思う様にはさせない!」 メインシステムパネルを開き、マイクロチップを挿入する。 T2の仕上げたシステムの、セキュリティーコードを、彼と会話しながら、無線でダウンロードしていたのである。 「…なぜ?どうして解除できないの⁉️」 焦るレイラ。 「甘く見て貰っちゃ困るぜ、お嬢さん」 「T2⁉️…シャトルに乗ったんじゃ?」 「TERRA(ウチ)には世界一の頭脳と、宇宙一の生きたAIがいてな。アンタの経歴と素性は、全部調べさせて貰った。NASAの知らない過去。アンタが、NASAを恨んでいることもな」 レイラの両親も、宇宙地球工学を極めた科学者であった。 2人が導き出した、衛星による通信技術と、コスモ・スコープと名付けた高精度衛星観測技術は、人々の暮らしをより快適にする為のものであった。 兼ねてから2人を監視していたNASAは、2人を(だま)し、NASAの技術者として取り込んだ。 NASAの監視に気付いていた2人は、レイラを死産として偽証し、遠い親戚に託したのであった。 結局2人の研究結果は、軍事目的に使用され、反抗した2人は、実験中の事故で命を落とした。 …とされた。 レイラはその事実を、探偵やその為に作ったCIAの彼氏を利用して、突き止めたのであった。 「残念だが、アンタが俺から盗んだデータはダミーだ。NASAのシステムミスで、Noah(ノア)計画を潰すつもりだったのだろうが、それは許すわけにはいかねぇ」 「知っていて、なぜ報告しなかったのよ?」 「簡単なことだ。俺もアイツらが嫌いでね」 優しく微笑むT2。 「私は絶対、アイツらを許さない!」 「その気持ちは分かる…が、それはラブが介入しなかった頃の、古いNASAだ。あんたに、誤った復讐はさせらんねぇ」 「…そんな…そんなこと、今更…」 力なく座り込んだレイラ。 涙が無重力の空間に漂う。 「泣くなよ、俺はそう言うのが苦手なんだ。でも、アンタのおかげで、ここに来て良かったと思えたぜ」 差し出した手を、レイラが掴んだ。 そして、抱きついた。 「こんな私のために…バカね、T2」 「こうゆうのは、ラブの仕事なんだがな…」 実際のところ、シールドにはエネルギーに時間制限があり、タイミングを見計らって、誰かが手動でスイッチを入れる必要があった。 突然、緊急警報が鳴り響く。 「T2、巨大な太陽フレアが発生したわ。死んだら、絶対に許さないからね❗️」 「ラブか❗️了解。さて、レイラやるぜ」 「あと30秒です」 「アイ、もう少し早めに言えよ💧」 地球からフレアが見えた時は手遅れ。 その予兆を博士が捉え、通達したのである。 「レイラ、その赤いレベルメーターが5になったらカウントダウンしてくれ」 「5、」 「早っ💦」 「3、2、1」 「頼むぜ❗️」 T2が、シールドを発動させた。 太陽では、長さ20万km、高さ12万kmにも及ぶの史上最大のフレアが発生していた。 その猛烈な電磁波が、シールドを直撃した。 少し遅れて、空気のあるステーション内に、圧迫する様な低周波の鈍い音が響く。 壁が歪み、強化ガラスが悲鳴をあげる。 「ヤベぇ、レイラこっちへ!」 手を引いてデッキから出る。 通路の壁を蹴って、勢いよく進み、脱出ポッドのある部屋の壁に、レイラを抱いて背中から激突する。 「グハッ❗️」 「T2❗️」 体内に埋め込まれたパワーチップが、全開で衝撃を受け止めた。 「み…見た目より重いんじゃねぇか?」 「バカ💦」 壊れたドアを、パワーで開くT2。 「空気を抜かなきゃ、音圧でステーションが崩壊する。宇宙服を着て、脱出ポッドへ!」 素早く宇宙服を着たT2。 レイラに、圧縮空気を接続し、ベルトで体を固定した。 「俺はデッキに戻り、空気を排出する。5分したら、ポッドが閉まる。いいな、絶対に出るなよ❗️」 「そんな!T2は?」 「I'll be back.」 親指を立てて見せ、壁を蹴った。 (やっと言えたぜ、シュワちゃんよ!) デッキの入り口を掴み、体を引き留める。 「グァ❗️キッツ〜」 身体中が(きし)む。 中へ入り、空気を止め、排気ボタンを押した。 瞬間に入り口の壁へ飛び、しっかり掴む。 そこへ、急激な排気の流れが襲いかかる。 「クッ!」 このステーションには、空気の流出事故を想定し、壁や床に捕まるためのグリップや凹みができる。 最終的には、破損エリアを区切る遮蔽(しゃへい)扉が自動で閉まる予定だが、未完成であった。 身体中のパワーチップを駆使し、進むT2。 (普通の人間じゃ無理だな…クソッ!) 時間がない。 カーブした通路を見つめるレイラ。 (お願い…間に合って) 〜TERRA地下基地〜 磁気嵐に対応して、アイがシールドの角度や位置を懸命に調整している。 「博士、第二波は?」 「今の巨大なフレアにより、黒点が減り、縮小している。もう大きなものは起こらない。それから、幸いにも少し地球を掠めた程度で済んだ様だ」 「今は昼間だから、月には影響しないわね」 「放射熱の到達は、恐らく3時間後だが、月が現れる方角とは異なる。大丈夫だ」 しかし…掠めた程度って… 直撃した場合は、想像すら出来なかった。 その3時間後。 強大な熱量がステーションを襲った。 先の電磁波で、エネルギーを使い果たした外郭のシールドは、瞬時に消滅した。 ステーションのシールドも、持続時間の限界に達し、その殆どが消滅。 全てのステーションが、修復不可能な大打撃を受けたのである。 〜ハワイ島の北1500km〜 放射熱が到達する前に、脱出ポッドが地球へ発射されていたのである。 ラブとティークのジェットヘリが、現地に到着し、着水した。 「ガシンッ❗️」 上面のハッチが、吹き飛んだ。 「T2❗️」 ラブが叫ぶ。 そんなことができるのは、彼しかいない。 先にレイラが現れ、次いでT2が出てきた。 水面の翼に立つ2人。 「しぶとい野郎だ」 ティークが呟き、レイラを後部席へ導く。 「お帰りなさい、T2」 「帰る場所が無事で良かったぜ」 ラブの後部席へ乗り込むT2。 「皆んなに連絡。無事に2人を回収したわ!」 世界中が歓声に包まれた。 さらに5日後。 太陽からの膨大な質量放出が地球に届いた。 ラブは軌道上の衛星を、定期的に太陽へ向けて放ち、その到達を予測する方法を取った。 どうせ、全て破壊される運命の衛星である。 そして、主要な発電所や変電所の電路を全て完全に遮断し、強固に絶縁処置をした。 これにより世界は、2日間大きな電力を失った。 しかし、あらかじめの備えが有れば、何とかなるものであり、自家発電や、発電機が普及している時代である。 数年間の大停電に比べれば、比ではない。 こうして、予想外の危機は乗り越えた。 迫り来る超巨大彗星『Ruin(ルイン)』。 その為のNoah(ノア)計画を犠牲にして…
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