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〜宇宙ステーション『Kizuna Ship』〜
各ステーションの軌道修正は完了し、不完全ながら、更に外郭に設けられたシールドと合わせれば、地球への直撃は、ほぼカバーできると考えられた。
今は太陽に出現した巨大な黒点群の位置に合わせて、全ステーションとシールドの位置を、アイが修正中である。
最後のシャトルが、地球に向けて離脱しようとしていた。
「後はレイラだけか…」
EARTHから派遣されたステーション統括責任者、ニコール・H・カーネルソンは焦っていた。
一方レイラは、シャトルの時間が1時間早まったことを知らず、ついに心を決めた。
「レイラ、もう限界だ、早くシャトルへ!」
「ニコール、私は残ります」
「バカな、死んでしまうぞ!」
「実際に何が起きるか予測できません。誰かが残って、対処する必要があります。行ってください」
地球からの連絡も入る。
「何をしている、フレアが発生する前に大気圏内にいないと、手遅れだ。今すぐに離脱しろ」
「そう言うことだ、行くしかねぇ」
T2が、離脱ボタンを押し、ハッチを閉める。
「バシュン!」
最後のシャトルが、地球へ向けて飛び立った。
その光景を見つめるレイラ。
「思う様にはさせない!」
メインシステムパネルを開き、マイクロチップを挿入する。
T2の仕上げたシステムの、セキュリティーコードを、彼と会話しながら、無線でダウンロードしていたのである。
「…なぜ?どうして解除できないの⁉️」
焦るレイラ。
「甘く見て貰っちゃ困るぜ、お嬢さん」
「T2⁉️…シャトルに乗ったんじゃ?」
「TERRAには世界一の頭脳と、宇宙一の生きたAIがいてな。アンタの経歴と素性は、全部調べさせて貰った。NASAの知らない過去。アンタが、NASAを恨んでいることもな」
レイラの両親も、宇宙地球工学を極めた科学者であった。
2人が導き出した、衛星による通信技術と、コスモ・スコープと名付けた高精度衛星観測技術は、人々の暮らしをより快適にする為のものであった。
兼ねてから2人を監視していたNASAは、2人を騙し、NASAの技術者として取り込んだ。
NASAの監視に気付いていた2人は、レイラを死産として偽証し、遠い親戚に託したのであった。
結局2人の研究結果は、軍事目的に使用され、反抗した2人は、実験中の事故で命を落とした。
…とされた。
レイラはその事実を、探偵やその為に作ったCIAの彼氏を利用して、突き止めたのであった。
「残念だが、アンタが俺から盗んだデータはダミーだ。NASAのシステムミスで、Noah計画を潰すつもりだったのだろうが、それは許すわけにはいかねぇ」
「知っていて、なぜ報告しなかったのよ?」
「簡単なことだ。俺もアイツらが嫌いでね」
優しく微笑むT2。
「私は絶対、アイツらを許さない!」
「その気持ちは分かる…が、それはラブが介入しなかった頃の、古いNASAだ。あんたに、誤った復讐はさせらんねぇ」
「…そんな…そんなこと、今更…」
力なく座り込んだレイラ。
涙が無重力の空間に漂う。
「泣くなよ、俺はそう言うのが苦手なんだ。でも、アンタのおかげで、ここに来て良かったと思えたぜ」
差し出した手を、レイラが掴んだ。
そして、抱きついた。
「こんな私のために…バカね、T2」
「こうゆうのは、ラブの仕事なんだがな…」
実際のところ、シールドにはエネルギーに時間制限があり、タイミングを見計らって、誰かが手動でスイッチを入れる必要があった。
突然、緊急警報が鳴り響く。
「T2、巨大な太陽フレアが発生したわ。死んだら、絶対に許さないからね❗️」
「ラブか❗️了解。さて、レイラやるぜ」
「あと30秒です」
「アイ、もう少し早めに言えよ💧」
地球からフレアが見えた時は手遅れ。
その予兆を博士が捉え、通達したのである。
「レイラ、その赤いレベルメーターが5になったらカウントダウンしてくれ」
「5、」
「早っ💦」
「3、2、1」
「頼むぜ❗️」
T2が、シールドを発動させた。
太陽では、長さ20万km、高さ12万kmにも及ぶの史上最大のフレアが発生していた。
その猛烈な電磁波が、シールドを直撃した。
少し遅れて、空気のあるステーション内に、圧迫する様な低周波の鈍い音が響く。
壁が歪み、強化ガラスが悲鳴をあげる。
「ヤベぇ、レイラこっちへ!」
手を引いてデッキから出る。
通路の壁を蹴って、勢いよく進み、脱出ポッドのある部屋の壁に、レイラを抱いて背中から激突する。
「グハッ❗️」
「T2❗️」
体内に埋め込まれたパワーチップが、全開で衝撃を受け止めた。
「み…見た目より重いんじゃねぇか?」
「バカ💦」
壊れたドアを、パワーで開くT2。
「空気を抜かなきゃ、音圧でステーションが崩壊する。宇宙服を着て、脱出ポッドへ!」
素早く宇宙服を着たT2。
レイラに、圧縮空気を接続し、ベルトで体を固定した。
「俺はデッキに戻り、空気を排出する。5分したら、ポッドが閉まる。いいな、絶対に出るなよ❗️」
「そんな!T2は?」
「I'll be back.」
親指を立てて見せ、壁を蹴った。
(やっと言えたぜ、シュワちゃんよ!)
デッキの入り口を掴み、体を引き留める。
「グァ❗️キッツ〜」
身体中が軋む。
中へ入り、空気を止め、排気ボタンを押した。
瞬間に入り口の壁へ飛び、しっかり掴む。
そこへ、急激な排気の流れが襲いかかる。
「クッ!」
このステーションには、空気の流出事故を想定し、壁や床に捕まるためのグリップや凹みができる。
最終的には、破損エリアを区切る遮蔽扉が自動で閉まる予定だが、未完成であった。
身体中のパワーチップを駆使し、進むT2。
(普通の人間じゃ無理だな…クソッ!)
時間がない。
カーブした通路を見つめるレイラ。
(お願い…間に合って)
〜TERRA地下基地〜
磁気嵐に対応して、アイがシールドの角度や位置を懸命に調整している。
「博士、第二波は?」
「今の巨大なフレアにより、黒点が減り、縮小している。もう大きなものは起こらない。それから、幸いにも少し地球を掠めた程度で済んだ様だ」
「今は昼間だから、月には影響しないわね」
「放射熱の到達は、恐らく3時間後だが、月が現れる方角とは異なる。大丈夫だ」
しかし…掠めた程度って…
直撃した場合は、想像すら出来なかった。
その3時間後。
強大な熱量がステーションを襲った。
先の電磁波で、エネルギーを使い果たした外郭のシールドは、瞬時に消滅した。
ステーションのシールドも、持続時間の限界に達し、その殆どが消滅。
全てのステーションが、修復不可能な大打撃を受けたのである。
〜ハワイ島の北1500km〜
放射熱が到達する前に、脱出ポッドが地球へ発射されていたのである。
ラブとティークのジェットヘリが、現地に到着し、着水した。
「ガシンッ❗️」
上面のハッチが、吹き飛んだ。
「T2❗️」
ラブが叫ぶ。
そんなことができるのは、彼しかいない。
先にレイラが現れ、次いでT2が出てきた。
水面の翼に立つ2人。
「しぶとい野郎だ」
ティークが呟き、レイラを後部席へ導く。
「お帰りなさい、T2」
「帰る場所が無事で良かったぜ」
ラブの後部席へ乗り込むT2。
「皆んなに連絡。無事に2人を回収したわ!」
世界中が歓声に包まれた。
さらに5日後。
太陽からの膨大な質量放出が地球に届いた。
ラブは軌道上の衛星を、定期的に太陽へ向けて放ち、その到達を予測する方法を取った。
どうせ、全て破壊される運命の衛星である。
そして、主要な発電所や変電所の電路を全て完全に遮断し、強固に絶縁処置をした。
これにより世界は、2日間大きな電力を失った。
しかし、あらかじめの備えが有れば、何とかなるものであり、自家発電や、発電機が普及している時代である。
数年間の大停電に比べれば、比ではない。
こうして、予想外の危機は乗り越えた。
迫り来る超巨大彗星『Ruin』。
その為のNoah計画を犠牲にして…
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