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第4章. 侵略者
世界は、一定の平穏を取り戻しつつあった。
しかし、一度活性化した太陽活動は、簡単には収まらず、各地の気温は上昇し、日本では冬を失っていた。
〜東京台場〜
警視庁は、特別対策本部を立ち上げた。
『東京連続不審死事件』
花山警視総監自らが指揮をとり、第1回目の合同対策会議が始まった。
「諸君、今回の事件は極めて特異なものであり、本会議も外部への情報漏洩は、厳罰に処するものと肝に命じて貰いたい」
所轄や警視庁本部の者も入れず、台場の凶悪犯罪対策本部のみが、警察庁からのメンバーとなっていた。
「尚、本事件は、我々の常識を越えたものであり、TERRAコーポレーションと、NASAの主導のもとに行うこととする」
NASAの介入に、騒めきが起きる。
警視総監が壇上から降り、ラブが立った。
「皆さんもお気付きの通り、今回の事件は、東京湾に現れた謎の球体が発端です」
TERRAから昴とアイが、モニターに関連する映像を映し出す。
「この球体は、最初は宇宙から飛来し、日本近郊の太平洋に着水しました。我々TERRAは、アメリカのNASAやロシアのロスコスモス社と共同で、当初彗星と思われたこの物体を観察していました」
非公開だった情報と映像に、騒めきが増す。
「その後、球体は姿を消し、東京湾を突然襲った宇宙からの攻撃により、晴海埠頭沖に再び現れました。分析からは、この球体は脱出ポッドと考えられ、一つの生体反応も確認しました」
(やはり、エイリアンってことか…)
推測していた事実を、囁き合う会場。
「あの攻撃は、この球体にいた、地球外生命体を狙ったものです」
ラブの明言により、騒めきが収まる。
攻撃による死者は826人に及んだ。
「そして、球体が消滅した直後から、晴海ふ頭公園を中心に、不審死が発生。死因は全て二酸化炭素中毒でした。地球上にはない、未知の物質を吸い込んだことにより、血液中に高濃度の二酸化炭素が発生し、即死に至ったものです」
もう囁きすら出ない。
「すぐ近くの総合病院へ運ばれたこの人物」
黒のダウンジャケットに、グレーのセーター。
下はジーンズに、スニーカー。
「搬送された時は、男性とされていましたが、診察した医師は女性だったと言ってます。診察結果は特に異常は見られず、明らかに二酸化炭素中毒ではありませんでした」
長めの茶髪で整った顔立ちは、女性と男性を間違えたとも考えられた。
その疑念を感じ取るラブ。
「搬送した救命士と診察した医師は、感染対策マスクを着用していたため無事でしたが、対処した看護師2名が死亡。その後この人物は行方不明になり、これが玄関の映像です」
数名が慌てて出て行く状況を映し、顔の拡大写真が別のモニターに並ぶ。
「出口はここだけでした。あの患者の顔はありませんが、この人物の衣服は、一致します」
(確かに…どういうことだ?)
「公園の茂みから、下着姿で亡くなっている女性が発見され、その衣服を着用したものと考えられます。病院では、玄関から診察・処置室の間で、8人が二酸化炭素中毒で死亡。その後、病院から地下鉄大江戸線の勝どき駅迄の間で、12人が同じく死亡しています」
モニターには、晴海一帯の遺体発見場所が記された地図が映る。
「これは、勝どき駅ホームの映像。あの服装の全く違う顔の男性が乗り込み、その周辺の人が、次々と倒れていきます」
異変に気付き、逃げ惑う乗客達。
「そしてこれが、汐留駅ホームの映像。あの服装の女性と思われる人物が下車しており、身長も10センチ程低くなってます。車両内では5人、汐留駅内では3人が死亡。7番出口付近で2人、環ニ通りの歩道橋で1人が二酸化炭素中毒で搬送され、2人は助かりました。この後、すぐ近くの新橋駅の映像を最後に、行方不明に…」
(ラブ様、東方艦隊とコンタクトした相手が判明しました)
(行きます)
「ではここで、TERRAの科学部長、ヴェロニカに代わります」
突然振られたヴェロニカであったが、それなりの理由があると判断した。
話すべきことは分かっている。
後方から出て行くラブ。
「続けます。最初に、畏まってる場合じゃないので、ご理解を。これまでの説明で、あの人物が容姿を変えられることは明らかな事実。更に、その能力と球体から消えた生命体の状況から、コイツは地球外生命体であると確信しました」
(やっぱりエイリアンか…)
「敢えて、エイリアンと言う表現は、敵視する先入観を持ちますので、控えます」
「し、しかし、現に沢山の人が死んでいるじゃないか?」
同意する囁きが多い。
「その通り、死んでいるのであって、殺されているとは違うのよね。現にアレが襲ったり、凶暴性を見せた証言はありません。それどころか、自らも意識を失い、搬送されています」
「じゃあ、アイツは敵ではないと言うのか?」
「分かりません」
「分からないだって?こんなに人が死んで、攻撃まで受けて、それでも科学者か!」
カッチーン💢
「うるさい❗️」
「あらら💦」
鳳来咲の声が響き、一瞬で静まる会場。
固まる暴言者。
「話を聞けない奴は、今すぐ出て行け❗️私だって、エイ…いや、地球外生命体なんて信じられないし、頭に来てる。しかし、ラブやヴェロニカの話は事実だ。攻撃も、アイツは狙われた側で、確かにアイツは攻撃性は見せてない。分かったか❗️」
座り直し脚と腕を組む咲。
おどおどと引き下がる暴言者。
(やるじゃない…ヴェロじゃなかったし)
「続けます。恐らくこの地球外生命体は、地球の環境に最初は順応できず、死んでいた女性を見つけ、バレない様に衣服を盗み、意識を無くしたと考えます」
囁きも起こらないのを確認した。
「もう一度、電車内の映像を」
昴が映像を流す。
「これが大きなヒントよ。倒れた乗客は、アイツの正面から、エアコンの風下にいた者。先に見せた地球上にはない元素。あれは、アイツが吐いた息に含まれていると考えて間違いないわ」
「つ…つまりアイツは…」
「そう、ただ呼吸しただけよ。殺意は多分…ない。そして、被害者はだんだんと減少し、ついには無くなった。つまり、地球の環境に順応したということね」
騒つきが起こる。
「とにかく、今はアイツを見つけること。警察の皆んなは、それに協力を。見つけても、手を出しちゃダメ。攻撃力がわからないから。その先は、私たちに任せて。紹介しとくわ、NASAのチャールズ・プレッシャーさんと、ダニエル・ボールデンさん。長年地球外生命体を研究しているベテランよ」
2人が立って、ぎこちなくおじぎした。
「以上よ。服装だけの写真を各署に配布します。既に変わっているかも知れないけど、今はそれしか手掛かりはないから。駅から辿って目撃情報や、挙動不審な人物を調査して。よろしく❗️」
「ヴェロニカ博士、ありがとう。そういうことだ。警察の威信にかけて、何としても、見つけるように頼む。解散!」
花山警視総監が締め括った。
「咲と昴、紗夜と淳一は、この事件を頼む。昴は呼び戻してくれ」
昴と紗夜の読心術、咲の勘が頼りであった。
「戸澤は、新人の近藤羅衣斗と他の事件を頼む」
「さぁて、地球外生命体ってやつを、見つけてやろうじゃないの!行くわよ」
じっと見送る富士本であった。
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