第5章. 最大の脅威・最強の敵

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〜外層圏〜 地球からの距離、約800km。 直方体であった物体は、外部に(まと)っていた戦闘機や戦艦が50%程離脱し、中心にある巨大な戦艦の姿が現れていた。 監視衛星がその姿を映し出す。 「あれが本体ね、戦闘はラブ達に任せて、シャトルと核ミサイルの準備を進めて。アレを倒したら即発射できるように」 「欧州やアフリカ諸国から、発射準備完了の連絡がありました」 綾波美南がヴェロニカに告げる。 「奴らの裏側ね…計算はできてる?」 「はい、いつでも軌道に乗せられます」 「よし、じゃあ奴等から見えない欧州、アフリカ大陸側は、順次発射を!もし、気付かれて敵が向かった時は、太平洋戦線に参加していない諸国の軍で、対処する様に!」 モニターに、各国の了解ランプが灯る。 (ラブ…時間がない…頑張って) その祈りと共に。 ふと…ラブを遠くに感じた。 軽い目眩でふらつくヴェロニカ。 超巨大ミサイルを爆破できたとして、その衝撃波は、想像を遥かに超えるもの。 出来るだけ遠くで破壊し、残した核ミサイルを爆破させて、段階的に衝撃波を打ち消す作戦であった。 勝算は…ない。 未だかつて実例のない、未知の作戦である。 エネルギー生命体のアイと2人で、眠ることも忘れて必死に練った策。 でも…自信は微塵もない。 既に作戦は全世界に公表され、シェルターや地下への避難が始まっていた。 それに伴い、様々な人災が、世界中の人々を、いや、自らを、必要以上に追い込む。 お決まりの様に、世界のあちこちで、暴動や略奪が始まった。 そんな彼らは、罪に問われもしない。 おかしな世の中。 方や、この事態を世紀末と称し、神の襲来が如く(うやま)う者達。 目を閉じ、あるはずもない神に、祈りという精神的な武器で立ち向かう者達。 (せい)への道を諦め、自暴自棄と現実逃避から、酔って集って騒ぐ者達。 未知の恐怖に、自分一人では耐えきれず、周りを巻き添えにして命を絶つ者達。 そして… そんな世界を、テレビで見ながら食を摂り、いつも通りに仕事へ向かうこの国。 この状況下でも、非日常的な世紀末を、(よそ)の出来事として眺める国もある。 つくづく(みだ)らで、曖昧な国だと感じた。 浅はかで、危機感に乏しい国だと(さげす)んだ。 そんな国を、平和や絆や人情、そんな綺麗な言葉で、人道的と説く海外メディア。 無関心。 ある意味、暴動を起こす人々の方が、この国の人々より、正しく感じているのかも知れない。 そんな世界のほんの一部。 ほんの一握り。 こうして、命を懸けて戦っている人達がいる。 それはもう、誰かのためと言う概念を、遥かに超えた世界。 ただ直向(ひたむ)きに、自分の使命として。 本当に守るべきものなのか? この地球(ほし)の為に、人類絶滅を(はか)った父、ラルフ・ヴェノコフ。 その想いを継いで、信念の中に愛を持って死んだ姉、チェコノヴァ。 それは、実は正しい選択なのかも知れない。 少なくとも、こんな浅はかな人々に、命を懸けて守る価値はない。 …滅ぶべき者。 この日。 TERRAから、ヴェロニカの姿が消えた。
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