ワンナイト

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 隣で眠る彼女の可愛らしい顔を眺めながら。  そっちこそ、この寝顔は反則。いや、この顔であのテクニックのギャップは本気でずるい。  一夜限りかぁ。  彼女の目が覚めてここを出たら終わる関係だ。  何度でも言おう。  なんで、こうなった。 「あ、おはようございます」  可愛い子は、寝惚け顔も可愛いのか。 「ん、おはよ」 「お姉さん、気持ちよかったですか?」  うっ、いきなりそれ聞く?  まぁ、ここで意地を張ってもしょうがない。 「うん、とっても」  素直に認めた。 「それは、良かったです」  綺麗な笑顔で言う。 「でも、貴女は良かったの?」 「え?」 「私だけ気持ち良くなっちゃって、申し訳ないというか……」 「あぁ。では、ひとつお願い聞いてもらえますか?」 「何?」 「名前、教えてもらえませんか?」 「名前……?」 「ワンナイトじゃなくて、また会いたいな。なんて、ダメですよね」  今度はしおらしく言う。  こんなこと言われて断れる人間なんているんだろうか。  なにこれ、夢オチとかじゃないわよね?  思わず、彼女のほっぺをつねる。 「痛っ」  夢じゃない!  何するんですかぁ、って涙目になってる彼女に。 「名前を聞くなら、まず名乗るのが先でしょ?」  社会人のマナーを教える。 「そうですね」  そう言って、ベッドから抜け出して、バッグをゴソゴソしていたと思ったら戻ってきて、ベッドの上に正座して。 「こういうものです」と、名刺を差し出したーー下着姿だけどーー  何かのギャグかと思ったら、ちゃんとした会社の名刺だった。  ここまでされたら、教えないわけにはいかないか。 「今、名刺はないけど、橘美佐と申します」  深々と頭を下げたーー下着も付けていないけどーー 「じゃ、みーちゃんですね!」 「は? そんな猫みたいな呼び方?」  私をいくつだと思ってんの? 「え? 嫌ですか?」  彼女に言われると、悪くないなと思ってしまう自分がいることも確かなんだけど。 「2人の時だけにしてよ?」 「はぁい。私はなんでもいいですよ」 「えっと、大石雫?」 「はい」 「しずく!」 「はぁい」  嬉しそうに笑った彼女を見たら、もっと早く名前を教えて、彼女の名前も呼んであげれば良かったなと思う。  これはもう、ワンナイトでは終われない。  そんな気がする。  どうして、こうなったか。  それは、すでに恋に堕ちていたから。
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